『悪人伝』『WAR ウォー!!』映画星取り【7月号映画コラム③】
今回の映画星取りは『悪人伝』、『WAR ウォー!!』の2本。アジア映画ももちろんカバーしていきます。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記)
<今回の評者>
柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:今日こそ給付金が入金するかと日々預金残高を確認するばかり。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:言いたい放題最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は8月7日(金)20時からTwitchで。アーカイヴはYouTubeにもアップしてます。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:マカオのカジノ王スタンレー・ホーが大往生。このタイミングで『カジノタイクーン』配信開始。Netflixさすがです。
『悪人伝』
監督・脚本/イ・ウォンテ 出演/マ・ドンソク キム・ムヨル キム・ソンギュほか
(2019年/韓国/110分)
●やくざの組長ドンスは何者かに襲われ、死の淵に追いやられる。奇跡的に一命をとりとめたドンスは犯人捜しを行う。一方で、この事件の捜査にあたるチョン刑事は、公になっていない事件の犯人が組長襲撃犯と同一人物であると考え、ドンスと共闘していく。
7月17日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー
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配給:クロックワークス
柳下毅一郎
よくもわるくもマ・ドンソク頼み
ヤクザのボスが連続殺人鬼に襲われるが、九死に一生をとりとめる。ヤクザのメンツにかけても警察に助けを求めるわけにはいかないボスは、警察に犯人探しの競争を挑む。ヤクザ×警察×殺人鬼の三つ巴。あらすじを説明するだけで見どころがわかってしまう単純明快さが映画の力、無茶に説得力を与えるのはマ・ドンソクの肉体の力だ。刺されても死なない不死身の無敵ヤクザを肉体だけで魅せられるのはこの世にマ・ドンソクただ一人だ。
★★★★☆
ミルクマン斉藤
ヴァイオレンス度はかなりだけど笑えます。
セルフ・プロデュースし始めて以降のマブリー映画は、どれも自分のキャラを熟知した上で映画的爽快感を与えてくれる作品ばかりなのだが、これはとりわけ秀逸。久々のがっつりヤクザ役だが、あのガタイなのに連続殺人鬼に半殺しにされるなんて愛嬌がある。警官とアウトローが組むバディ映画はままあるが、科学捜査に長けた警察と広域捜査に長けたヤクザが集団で共闘するというアイディアはかなり斬新じゃないだろうか。最後の最後のオチまでヤラレました感あり。
★★★★☆
地畑寧子
黒社会もの好きには堪らない共闘
漢の世界を近年連打している韓国映画の中でもトップクラスの熱量をもった痛快作。演技巧者がひしめく韓国映画界で、存在感で魅せる稀な役者マ・ドンソクの持ち味を活かしきったのが最大の勝因。警察、裏社会の清濁入混じりの紙一重な組織図が面白く組み込まれているのも魅力。受けの演技も巧い刑事役のキム・ムヨルもいいが、組織に無縁のサイコ男を怪演したキム・ソンギュはクセになる役者。韓国映画界の役者層の厚さも改めて痛感。
★★★★☆
『WAR ウォー!!』
監督/シッダールト・アーナンド 脚本/シュリーダル・ラーガヴァン シッダールト・アーナンド 出演/リティク・ローシャン タイガー・シュロフ ヴァーニー・カプール アーシュトーシュ・ラーナー アヌプリヤーニー・ゴーエンカーほか
(2019年/インド/151分)
●インドの諜報機関の優秀なスパイ・カビールが味方の高官を射殺し逃走。諜報機関はカビールを抹殺すべく、ハリードにその任務を与えるが、ハリードにとってカビールは師のような存在であったために、師の行動に疑念を持ちながらカビールの行方を追う。インドで大ヒットを記録したスパイアクション。
7月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開!
WAR © Yash Raj Films Pvt. Ltd.
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
柳下毅一郎
爆発!爆発!また爆発!
アクション、格闘、爆発、友情、裏切り、スタント、爆発、美女、アクション、ダンス、爆発、爆発、爆発! これぞボリウッドな、ゲップが出そうなてんこ盛り映画。見ているあいだは一瞬も退屈する暇のないなんでもありアクション。気になるのはヒンドゥー・ナショナリズムが横溢し、ムスリムは国家への裏切り者で一顧だにする必要はないと言わんばかりの世界観である。脳みそを空っぽにして、どうぞ。
★★★★☆
ミルクマン斉藤
面白いんだけど既視感だらけ。
インド映画好きにとってはもはや古株リティクと、まだまだ新人タイガーの共演作。「リティク兄さんお願いします」とばかりにムキムキ筋肉で張り切るタイガーが健気でスター性も抜群、コラボレーションは悪くなく150分という長尺も(って昔にしてみりゃ短い方だ)全然保つのだが、アクション振付のグレードは高くてもジョン・ウーやワイスピ、MIやロバート・ロドリゲスのオマージュならぬコピーばかりじゃなぁ。ミュージカル的シーンが2つだけなのも僕的には大いに不満。
★★★☆☆
地畑寧子
ボリウッドの世代交代
インド映画界にもアクションスタントの歴史があり資金も豊富なので、本格アクションを撮れる監督、有能なアクション監督(韓国から参加)身体能力が高い役者、脚本が揃えば、これだけのスケールになるという典型が本作で、数多の作品の引用応用も嬉しい面白い作品ではあることは確か。だが何かが足りない。3大カーン(シャー・ルク・カーン、アーミル・カーン、サルマン・カーン)でインド映画に酔った目から見ると、それは役者の華なのかも。とはいえ3大カーンも50代半ば。世代交代は致し方ないのかも。
★★★☆☆
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