
【無料】 マキタスポーツ(著) 『越境芸人 増補版』 試し読み ☞ 「第二芸能界」
およそ8年にわたるTV Bros.の連載をまとめ、書き下ろしの新作を追加した、マキタスポーツの新刊 『越境芸人 増補版』から、収録されているコラムを試し読み。全5回の第3回は「第二芸能界」(第2章「第二芸能界」より)です。
第二芸能界
「第二芸能界」について。現状ある、いわゆる“芸能界”を「第一芸能界」と考えます。それともうひとつの芸能界があったらどうなんだろうかと。いや、実はもう既にあるんですが、みなさん、そういう認識は無い。ちょっと考えてみます。
「芸能界」というと、どうしてもテレビを主戦場とした“人気者が戯れる場”という認識があります。テレビは、スポンサーがいて、そこからの広告費を得ることで、タダで視聴出来るという構造があることは周知。結果、出ているタレントの「人気」はとても重要になります。タレントは、テレビに絡む収益の構造にガッツリ組み込まれている商品なので、視聴率を取れる人でなければならない。よく「数字の見込めるタレント」なんて言いますが、芸能者としての実力も含みますが、数字を下げない「イメージの良い人」という、正体のよくわからない存在が、その利便性から選りすぐられています。その人がどういう芸を売り物にしているかより、CMのイメージに貢献している、もしくは、イメージを下げない人が、いわゆる「売れている人」なのでした。
昨今の都知事選を見ていても、皆さん、ことの外「人気」が好きです。実際に自分がテレビを見ていても、無意識に「チャンネルを替える」が基本姿勢です。とすると、「人気」に群がるのは自分とて同じことだと思うのです。無意識にチャンネルを替え、無意識にチャンネルに立ち止まる、「人気」の実態なんてその程度のものです。善し悪しじゃなく、それはそれで大変ハードコアな世界。何故なら、そういう利権構造を作った人たちがいて、そこにあやかっている莫大な人員と、お金があるから。その経済の仕組み自体を我々は漠然と「芸能界」と思っているのでした。
でも、です。例えば落語界はどうなのか? 演劇界は? 音楽界は? それから、ニコ生やYouTuberはどうか? それぞれが収益構造を持ち、「芸能界」とクロスしつつも、別々の利権がそこにはあります。昨今“芸能界から干される”なんて怖い言葉がありますが、それはあくまで、僕の言う「第一芸能界」から干されるということなんだと思いたい。
その昔、田原俊彦さんは、いわゆる「干された」状態になっていましたが、コンサートをして、グッズを売ったり、そういったオルタナティブな活動をすることで、きちんと己の芸能を売り続け、未だ現役としてバリバリやっています。
一方、ベッキーはあんなことになってしまいました。今後、頑張ってもらいたいのはもちろんですが、彼女と、ゲスの極みの方との差は、売っていたモノの違いです。ベッキーはコンテンツを作ってきていません。それに比べ、川谷さんは明確に「音楽」を売っている人で、テレビに依存していなかった。本当はベッキーだって、芝居や、音楽という「芸能」を売りたかったのに、やたらとテレビに出て、やたらとCMに出て、「好感度」を事務所ぐるみで売りモノにしたと。なので、イメージが下がった途端、あんなことになった。
ベッキーは、第一芸能界の極みを極めた極道です。それはそれで凄いことだけれど、これからは「第二芸能界」で結果を出せば良いんです。「第二芸能界」は、客、あるいは消費者との距離が明確で、かつ近い。売っているモノと、買われているモノの正体がハッキリしている。
やれ“干された”とか“落ちぶれた”とか、そんなイメージなんかどうでもいいので、「のん」に改名した方も、思い切り「第二芸能界」で売れて欲しいですね。
【初出:TV Bros. 2016年8月13日号】
撮影/ただ(ゆかい)
マキタスポーツ
1970年生まれ、山梨県出身。芸人、ミュージシャン、役者、文筆家。2012年の映画『苦役列車』で第55回 ブルーリボン賞新人賞、第22回 東京スポーツ映画大賞新人賞をダブル受賞。著書に『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)、『すべてのJ-POPはパクリである 現代ポップス論考』(扶桑社文庫)、『アナーキー・イン・ザ・子供かわいい “父親に成る”ということ』(アスペクト)がある。
<書籍情報>
ジャンルを“越境”するマキタスポーツ、10年分の評論集。
芸人・ミュージシャン・役者・文筆家と、ジャンルを“越境”しながら活動を続けるマキタスポーツによる、渾身のセルフマネジメント論にして、10年分の評論集。
さらに、アイドル歌手から俳優まで、あらゆる分野でトップに立ち、近年は公演や映画のプロデュースを手がけ、表舞台と裏方を行き来する“越境”のスペシャリスト、小泉今日子との特別対談を巻末に収録。
業界を飛び越え、ジャンルを横断するなかで見えてきた、定住しないからこそできること。いまや誰もが生き方の“編集”を求められる一億総表現者時代。セルフマネジメントだけが身を助ける自己責任社会。
考えない勇気を持て。
幸福の先を探せ。
頑張るな、負けろ!
とどまるな、越境しろ!
マキタ式“第三の思考法”にして、斜め上の日本人論。
マキタスポーツ (著)
『越境芸人 増補版』
発行:東京ニュース通信社
発売:講談社
本体価格:1,500円+税
ここから先は

TV Bros.note版
新規登録で初月無料!(キャリア決済を除く)】 テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、テレビ、音楽、映画のレビ…