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N君から聞いた「僻地の優しいオッさん」の話【大根仁 5月号 連載】

自分にとって数少ない友人の中でも、仕事とプライベートの区別なく、頻繁に会うN君は不思議な男だ。まず業種が説明しづらい。一応、映画やドラマのスタッフなのだが、職域が広く、プロデュース・脚本・演出それぞれの補佐的な仕事をしつつも、では彼がアシスタントプロデューサー・脚本協力・演出補(助監督)なのかといえば、そのクレジットをされることはない。

それら全てに関わっているのでカテゴライズできないのがその理由だが、多くのプロデューサー・脚本家・監督から絶大な信用を置かれており、企画が立ち上がると「とりあえずNを呼ぼう」「とりあえずNに脚本を読んでもらおう」となる。そしてなんだかよくわからないポジションでクレバーかつ適切な仕事をし、その都度違う謎のクレジットをされ、また別の作品へと渡って……という仕事ぶりは、まさにプロフェッショナル。

ちなみにN君はどこの会社にも属しておらず、フリーランスなのだが、早稲田大学出身でもあるので、オレは敬意と嘲笑を込めて彼を【スーパーフリー】と呼んでいる。具体的な作品名は避けるが、最近では米アカデミー賞で邦画として久しぶりに大きな賞を受賞したあの映画にも、重要なポジションでスーフリとして関わっていた。

「大根さんにお土産あるんで飲みませんか?」

N君からLINEが入ったのは、米アカデミー賞授賞式から1ヶ月ほど経った頃だった。どこにでも顔を出したがるN君はちゃっかり授賞式にも列席しており、馴染みの居酒屋でオスカー像のイラストがプリントされためちゃくちゃダサいTシャツをもらった。

「ウィル・スミスのビンタは速すぎて見えなかった」「アフターパーティーで会ったエミリア・ジョーンズは超気さくで可愛かった」「ジェーン・カンピオン監督はおしゃべりオバさん」「3次会のパーティー会場ではみんなベロベロでそこら中のテーブルにオスカー像が放置されていた」などなどの裏話を聞きつつ、酒が進むにつれ、話題は最近の仕事や互いの近況報告になった。

「そういえば去年、撮影現場だけ手伝った自主ドキュメンタリーがあったんですけど……」

N君が偉いのは、作品の大小やジャンルに関わらず、自分が必要とされれば、ほとんどノーギャラでも参加することで、その人徳が信頼を引き寄せるのだろう。

「スタッフも5〜6人しかいなくて、撮影も1週間くらいだったんですけど、舞台がものすごい僻地だったんですよ。で、まったく金が無い作品だったんですけど、地元の人が超協力的で」
「そうなんだ?」
「コロナ以降、全然人が来なくなったっていうのもあるんですけど、元々そこって住民がみんな優しいんですよ」
「あー、たまにあるよね、排他性が無いっていうか、よそ者に対してウェルカムっていうか、そういう土地柄の場所」
「そうなんですよ。で、その中でも一人の地元のオッさんがめちゃくちゃ優しくて。スタッフの宿泊場所として、自分が所有している店を提供してくれたり」

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