魔人が来たりて罰を課す…というライフハック 【連載 久保みねヒャダこじらせブロス】
それでも赤羽が…
(能町、帰宅する前に相撲中継の見逃し配信をどこで観るかをスマホで検索中)
能町 赤羽のデニーズ、ちゃんと深夜4時までやってる。さすが赤羽。でもそこで冷静に相撲見れるかな……。
久保 心さえ閉じれば。
能町 デニーズを出た後、夜中の赤羽を歩くのも嫌なんですよ。
久保 タクシーは?
能町 タクシーも悪いんですよ、赤羽は。
久保 何を信じたらいいの、赤羽で。
能町 赤羽である日、タクシーに乗ったら、私キャリーカート持ってたんですけど、運転手がパッと出てきて、トランクに入れてくれたんですよ。「あれ、赤羽なのにちゃんとしてるな」と思ってたら、その人から「どうですか? 赤羽のタクシーって」と聞かれたんです。で、素直に「はっきり言って悪いです(笑)」と答えたら、「ですよね。僕は毎回違う町に行って、その町のタクシーの様子を見る役目も兼ねてるんです」と言われて。
久保 そんな人いるんだ。
能町 たぶんタクシー会社の上のほうの人なんでしょうけど、「赤羽、たまに来るんですけど、やっぱり評判が悪いんですよ」と言ってたんです。実際、普段はトランク持ってても、自分から頼まないとトランク開けてくれないんですよ。しかもめんどくさそうな顔するし。行き先言っても返事をしなかったり、細い道をめっちゃ飛ばしたり、怖い思いをしたこともあって。だから赤羽のデニーズから深夜に歩いて帰るのも嫌だし、タクシーも嫌なんです。
ヒャダ 家で相撲見たらいいんじゃないですか? 猫と一緒に。
能町 家は猫がいるから、集中できないんだよね。猫がニャーニャー言ってくると、「構ってあげなきゃ」ってなっちゃう。
久保 相撲見るのって、そんなに命がけなんだね。
能町 赤羽で相撲見るのは命がけです。
──だけど、それでも赤羽が好きなんですよね?
能町 え、全然好きじゃない。
一同 (笑)
ヒャダ 僕も聞いたことないです。能町さんが赤羽好きだって。
能町 好きじゃないです、赤羽。
ヒャダ キャッチコピーですね。「好きじゃないです、赤羽」。
──ちょいちょい赤羽の話するから、なんだかんだ愛着あるのかと思ってました。
久保 語ってはいるけど、確かに「いい町」としては全然語ってないか。
能町 こないだびっくりしたのが、青森で過ごしてて、外が寒くて出たくないとき、ウーバーイーツやウォルトで頼んでたんですよ。で、北区に帰ってきたらウォルトが範囲外で、頼めなかったんです。北区は青森以下です(笑)。だから赤羽は全然好きじゃないっていうことで……申し訳ないです。
ヒャダ しゃあないっすね。
出会いはオーガニック or ケミカル?
──今日のライブ、ツイッターのリアクション見てたら、泣いた人が何人かいましたね(*)。
久保 え、どこで?
──たぶん、久保さんと田辺さんのぎこちないやりとりで。
能町 友情が芽生えそうな芽生えなさそうな、あのあたりがグッとくるんですかね?
──でもテレビや配信で「友達じゃない人が友達になる瞬間」を見ることって、実はあんまりないですよね。というか、もう二人は友達になったと解釈していいんですよね?
久保 それは分からないです。
能町 まだ(笑)?
ヒャダ ほんとにもう(笑)。
久保 だって友達になるのは結果論であって、いま定義することじゃないし。
能町 まあね。「後々なるかもしれません」っていう。
久保 いったん会って「仲良くなろう」となったけれども、「やっぱりこの人ちょっと……」となることだって、ネットが発達した世の中ではたくさんあるから。「私のことが嫌になったら、遠慮なく離れていってもいいよ」っていう、そういうものでありたい。だから今、「友達でしょ」っていう圧はかけたくなくて。でも最近の人たちって、どうやって友達になってるんだろう。さっぱり分からない。
ヒャダ 久保さん、ライブで「番組の企画で出会うのは、友達になる出会い方として不自然すぎる」って言ってたじゃないですか。でも最近の男女の出会いだって、もうPairsとかTinderとか、ケミカルになってきてますよね。だから友達との出会いだってケミカルでいいんです。「友達だけはオーガニックな出会いで」なんて時代はもう終わり。
久保 「結婚した相手は、登山のときに偶然出会った人です」とか……。
ヒャダ あー、オーガニックですね。
久保 「旅行先で足止めをくらったときに、偶然居合わせた人」とか。
ヒャダ オーガニック過ぎ(笑)。そこまでいくと、ヴィーガンの域っすよ。
能町 そんなこと、なかなかない。オーガニック過ぎて、逆に不自然なくらい。
久保 でも私、出会い方はオーガニックだけれども、その出会いをつなげようとするときには、びっくりするぐらい不自然な行動をしてるはずなんですよ。
能町 久保さんと私だって、最初に会ってから、もうちょっと踏み込むまで1年半くらいかかってますからね。
久保 でも、あそこは焦んなかったな。
ヒャダ そこはオーガニックにいったんですね。
久保 だから出会いが不自然だったら、その後はオーガニックに寄せていたかもしれない。
ヒャダ 全ケミカルでいいじゃないですか。もうそんなもんっすよ、世の中。
能町 全ケミでもいいですよ。
──オーガニックだろうがケミカルだろうが、どのみちどこかの段階で「今度どこそこに行きましょう」みたいな話が出てくるわけですよね?
久保 でも、その「どっかに行きましょう」が、もうこの年になってくると、自然な形になることがないなって。コロナ禍というのもあるし。
能町 「どっかに行きましょう」の不自然さってどういうことですか。「おいしいものを食べに行きたい」は自然じゃないんですか?
久保 私、大学時代というものを経験してないから、やっぱり憧れるのは「大学時代、ほんと毎日のように飲みに行ってたよねー」みたいなやつで。
──確かにそのシチュエーションだと、誘うことの不自然さはないですね。
ヒャダ いや、そんなのないっすよ。
久保 ない人はないらしいけど、ある人にはあるらしいじゃん。
ヒャダ 大丈夫ですよ。久保さんが大学に入ってても、そんなんなかったですって。自信持ってください。ないです。
能町 確かにそうだ。ないです。「大学に入っていたら充実してただろう」なんて思うなよ、ってことです。
久保 東大出た人と京大出た人から、そんなこと言われちゃったら(笑)。
ヒャダ ほんとにそうです。
「ハートカクテル」の世界に行けると思ってた
久保 ちょっと藤井隆さんのキリンジ評を思い出しちゃった。
ヒャダ なんですか、それ?
久保 藤井隆さんがキリンジを聴いて、「高卒だけど大学時代にいろんな思い出があったような気にさせてくれる」と感想を言ったという。ああ分かるなって。私も東京に来て、そんな恋愛はしたことないのに、岡村ちゃんの歌を聴いて「夜の六本木では何かが起こる」というイメージをインストールしていたけど、「ねえな」って。
ヒャダ ないっす。まさに「思ってたんと違う」ってやつです。僕も東京に行けば「ハートカクテル」みたいな世界が待っていると思ってましたもん。「大人になると僕はわたせせいぞうの世界に入るんだ」と思ってました。
能町 そうなんだ。
久保 ヒャッくんがニコニコ動画時代に、夜景をバックに「大きい仕事が決まったから、そのお祝いでいいお酒を飲んでます」みたいな、夜景をバックにした写真を載せてて、「この人はわたせせいぞうみたいな世界に住んでいるのかな」って錯覚してた。
ヒャダ 一番憧れが強かった時期ですね。「ハートカクテル」憧れ期です。ただ、自分がそういうところに行っても、一人称の視点にしかならないわけじゃないですか。「ハートカクテル」みたいに、主人公を三人称の視点で見た絵にはならない。だから自分が飲んでる姿をカメラで撮ってもらって、その写真のほうを見たいんですよ。一人称の視点だと実感が全然湧かなくて、「こんなもん?」としか感じないです。わたせせいぞうの世界にいけなくて、ずっと絶望してました。
能町 なんでこの話になったんだっけ。大学時代の話か。
久保 存在しない大学時代をイメージしたという話から。
ヒャダ だから久保さんの大学生活憧れと、僕の「ハートカクテル」憧れは同じなんです。
久保 大学生になって毎晩飲んだり、新社会人になって同僚と飲んだりするのって、さぞや自然な出会いの世界だったんだろうなって。
能町 自然って何なんだろうね。
ヒャダ それがつまりオーガニックというなんでしょうけどね。
久保 でもそういう層が今、オーガニックじゃなく、ケミカルに走ってるわけなんですよね。
ヒャダ サラリーマンで「オーガニックの出会いがいくらでもあるだろうに」という人々が、結局オーガニックは無理で。
能町 ケミカルで楽しくやってる人たちがいますよね。でもこの歳になったら、自然に友達になるのは難しいですよ。
ヒャダ もうケミカルでいいじゃないですか。
能町 これは久保さんを勇気づけない話になっちゃうんですけど。私の知人が、ツイッターでよく絡んでいた、趣味が合う人のオフ会に勇気を出して行ったらしいんです。話も合うし、友達になれそうだということで。そんなに多くない人数のオフ会に何回か行って、しばらくしてから最近気づいたらしいんですけど、その人からのフォローが外れてたらしくて……。
一同 うわーっ!
能町 本人には全く心当たりはないらしい。
ヒャダ 知らずに地雷を踏んでいた。
能町 そうなると、理由を聞くわけにもいかないじゃないですか。でも私はどうにかそれを聞き出せないかと考えていて、それでアドバイスしたのが「バカのふりして『フォロー外れてますよ』って言っちゃいなよ」って。
ヒャダ いいっすね(笑)。「ツイッター社がバグ起こしてますよ」って。
能町 完全にバカなふりをして聞く。それしかないと思ったんだけど、結局聞けてないらしい。
ヒャダ でもオフ会に行くだけですごいですよ。知ってるか知らないかみたいな関係性の、10人くらいの集まりに行くわけでしょう? パッと見は並列、だけど暗黙の序列がある食事会に。
能町 この歳になるとそれ、怖いですよね。だったら、まだ1対1のほうがいい。
ヒャダ 僕も基本サシですもん。
──序列が生まれないのって、3人までじゃないですか。5人以上だと、もう「はみご」が生まれそう。
久保 青春ハミーゴが。
ヒャダ 生まれますよね。ましてや10人とか考えられない。それでも打席に立つというのはすごいことです。で、今回、久保さんは久しぶりに打席に立ったわけですもんね。
久保 打席に立つって怖いね。気をつかっても、「まだつかい足りてないんじゃないか?」とおびえてしまう。
プレゼント贈るの、難しすぎない!?
──でも、一方的に憧れてた田辺さんとしゃべって「しっくりくる」という感触はあったわけでしょ?
久保 「違う生き方をしてるけど、共通の感覚がすごくある」というのは、一方的にYouTubeなりテレビなりで見てて知ってはいたんでいいんですけど。でも会う前から下調べしてる人って、ちょっと気持ち悪いんじゃないかなと思うし。
ヒャダ とはいえ、相手のことを何も知らないのも失礼ですよ。
久保 だから、YouTubeを見て仕入れた話をいっぱい聞いてたんだけど。
ヒャダ たぶん彼女はそれを「気持ち悪い」と思ってないです。むしろ「話が早くて助かるわー」と思ってますよ。
久保 そうなってはいました。でも「相手のことを調べすぎるのもどうなんだろう」という懸念はずっとあって。たとえば相手にプレゼントを渡すときに、何が好みかわからないから、その人のSNSをずっとたどって調べたりするのって、はたしていい方法なんだろうか……みたいなことも思うわけだよ。今の若い子はどうしてるんだろうね。仲良くなる前から、相手の過去を異常にさかのぼれちゃう時代なわけだから。
──プレゼントのことでいうと、相手のニーズに合わせようとするとキリがない気はします。ある程度は考えるとしても、どこかの時点で「プレゼントなんて押し付けでいいんだ」って割り切りも必要なんじゃないですか。
ヒャダ 僕、時々考え過ぎちゃって、町を2時間くらいさまようときがあります。
能町 私もあげるのほんと苦手。
久保 物を贈るのも難しいけど、人からもらった物を使い切れないことでも悩むんですよ。
能町 もらうのも贈るのも、ほんと苦手だな。友達からもらうほうがまだいいんですよ。私の趣味を分かってるから。親からもらう物が、私のセンスに合わないというのが本当に困る。身につける小物とかだと特に。
ヒャダ カタログギフトってあるじゃないですか。僕、あれをもらっても手続きしないんですよ。結果的に辞退することになるっていう。
能町 めんどくさいしね。カタログに欲しいのが載ってるとも限らないし。
ヒャダ 何かを選ぶって大変じゃないですか。だから、みんな宗教に入るんでしょ。選ばなくていいから。
能町 まあね。それに従ってればいいんだから。
ヒャダ 「明日歯医者行くかどうか迷ってるんです」「行きなさい」「分かりました」みたいなの、楽じゃないですか。「選ぶ楽しみ」って言うけど、実際はけっこうしんどいですよ。
能町 カタログギフトを贈るほうも、自分で選ぶのがめんどくさいから贈るのかもしれないしね。
久保 相手に何を贈るか悩んでる時間って、そんなに楽しくはないかもしれない。時間もかかるし。
──悩みに悩んで選んでも、喜んでもらえるとは限らないし。
ヒャダ 「これを選んで、後で後悔したらどうしよう」とか、「あっちのほうが良かったかもしれない」とか、そんなことばっかり考えてしまうんですよね。だったらもう、相手にとって要らないかもしれない物も送りつけて、本当に要らない物だったら「要らねえ、捨てる」でいいと思うんです。
「罰としてこれを捨ててしまうぞ!」
ヒャダ 僕、ちょっと薄情なところがあって、本当に要らないプレゼントをもらったら、その日に捨てちゃうんですよね。
久保 薄情だ。
能町 薄情ですね。
ヒャダ でも(捨てるまでに)寝かせる理由ってなくないですか?
能町 ないんだけどね。
久保 私、もったいなくて捨てられない物……もらった物じゃなくて自分で買った物でも、捨てるときに「大事にしなかった罰です」って自分に言って捨ててる。「罰としてこれを捨てます!」「やめて! もったいないから捨てないでーーっ!」って心の中で演技をして。「じゃあなんでそういう使い方をしなかったの? 罰です!」で、バーン!と捨てるみたいな。
能町 すごい(笑)。
久保 断捨離みたいな「いいこと」じゃなくて、「悪行」。「自分に罰を与えるために捨ててるんだ」っていう。
能町 それ、いいアイデア。
久保 マスクを捨てるときに、これ使ったりするんですよ。使用済みのマスクってどんどん出てくるじゃないですか。で、もったいないから「捨てる前にベランダの汚れを拭いてから」「犬の毛をこれで取ってから」と考えるんだけど、結局使わずにどんどん積み上がっていって。そんなときに罰魔人が現れて、「結局使い切れてないでしょ、罰として捨てます!」「やめてーーーっ!」って。
ヒャダ 「やめて、まだ使えるのに!」。
久保 「おめえが悪いんだよ!」「ぐすん、はい」。
能町 いいお芝居。
──罰魔人、いい概念ですよ。こんまりの「スパーク・ジョイ」に続く鉱脈かもしれない。
久保 新著『罰魔人』。英語で何て言うの?
ヒャダ パニッシュデーモン。自分で自分に演技する、そのワンクッションも大事なわけですよね。
久保 ワンクッションあると、もったいない物を捨てやすくなるっていう。「やめて! その野菜、まだ食べられるかもしれない!」。
能町 野菜もいくんだ。
ヒャダ 「待って! 罰魔人、待ってよ!」。
久保 「あなたは、わざわざスーパーが地方から取り寄せた、この新鮮な野菜を、2週間も使わずにしなびさせました。『根菜だからまだ使える』と思ってるでしょうが……捨てます」バーン!
ヒャダ 「やめて、許してーー!」。
能町 これはいい。
久保 私は結局、自分に罰を与えちゃって、幸せを享受できない側の人間なんですよ。でもその考えを、もうちょっといい方向へ活かせないかなと。それが罰魔人なんです。
能町 罰魔人、私も使うかもしれない。
(ピコーン)
久保 (田辺)智加からLINEが来た。ちょっと見ていいですか……「金曜日よろしくお願いします」って言ってる。
ヒャダ 金曜日に約束してるんですよね。
能町 そうそう、待ち合わせ。
ヒャダ どんどんやってください。犬を飼い始めたのに続いて、今度は田辺さんという友達ができましたね。
能町 私たち、優秀なカウンセラーになってます。
*久保さんにその後の話を聞いたところ、「田辺さんと最高に楽しい池袋おともだち会が出来ました」とのことでした。
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