『行き止まりの世界に生まれて』『宇宙でいちばんあかるい屋根』映画星取り【9月号映画コラム①】
今回は、大人になることへの葛藤が痛感できる2作。大人になったみなさんご自身の、かつての葛藤にも想いを馳せて…。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
<今回の評者>
渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:『三体』とデビッド・ベニオフとNetflix。これが三位一体になる可能性、高いかもしれませんよ!
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:ウギャ~と叫びたい時ニャンコの胴体フニャフニャ触ると、ストレス吸引力ハンパなく、ホント落ち着く。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:ロック・ドキュメンタリー映画の大饗宴『UNDERDOCS』(9/11から)の劇場パンフレットに寄稿しております。
『行き止まりの世界に生まれて』
監督・撮影/ビン・リュー 出演/キアー・ジョンソン ザック・マリガン ビン・リュー ニナ・ボーグレン ケント・アバナシー モンユエ・ボーレンほか
(2018年/アメリカ/93分)
●アメリカの繁栄から取り残されたイリノイ州ロックフォード。キアー、ザック、ビンの3人は貧困や暴力から逃れるようにスケートボードに熱中するが、成長とともにそれぞれの道を歩み始める。そんな3人の姿を通して、親子、人種、貧困といった分断とアメリカの現実を映し出す、第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート作品。
9/4(金) シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
配給:ビターズ・エンド
渡辺麻紀
スケボー少年たちの人生
ドキュメンタリーは、どこを切り取るかでほぼ決まると思う。本作の場合は、同じような環境で育った少年3人の12年を追う。ただし、そのなかのふたりは目標を見つけて、いい人生を手に入れようとしているのだが、そういうがんばる図はさらり。監督が切り取ったのは、ほぼマイナス面ばかり。こちらがアメリカの真実だということなんだろうか。個人的にはスケボーと映画監督として頑張ろうとしているふたりの青春のほうを観たかった。
★★☆☆☆
折田千鶴子
大人になるってやっぱ痛い
スケボー映画と言えば甘酸っぱい青春映画が多いが、このドキュメンタリーは“ここから抜け出すため”にスケボーに情熱を注ぎ、“いつか”とうそぶいていた仲間3人の12年を追う、ほろ苦い“ポスト青春物語”。カメラ(3人の一人)と被写体との距離の近さにより、リアルな息遣いや間までがすくいとられ得て、いつしか切なくてヒリヒリ。舞台となるかつてのアメリカンドリームの町が、いま全米最もみじめな都市3位と知って観ると、アメリカの現在・過去・未来が透かされ、さらに評価UP!
★★★★☆
森直人
ラストベルトからの手紙
奇跡の一本。まずはよく人種の違う男子3人組(アフリカ系、白人、アジア系)が揃ったものだと思う(仏映画『憎しみ』を連想)。その中のひとり、中国出身のビン・リューがカメラを回していて、しかも才能があって実際に映画監督になったことも驚きだ。原題“Minding the Gap”(溝に注意)が示すように、米国並びに世界を覆う分断や格差の実相が「内部」から報告される。特に年齢を重ねるに連れて現実の困難が増していく貧しい白人ザックの姿は痛ましい。ヤンキー家庭の「トキシック・マスキュリニティ」(有害な男らしさ)を受け継いで連鎖させがちなタイプでもあるが、その中でもカメラの眼は希望の光が差す瞬間を探している。
★★★★★
『宇宙でいちばんあかるい屋根』
監督・脚本/藤井道人 出演/清原果耶 伊藤健太郎 水野美紀 山中崇 醍醐虎汰朗 坂井真紀 吉岡秀隆 桃井かおりほか
(2020年/日本/115分)
●両親と3人で幸せに暮らし、隣人の大学生に恋をする、ごく普通の女の子・ひそか。血のつながらない母に父との子が生まれることを知り、疎外感を感じていたが、唯一の憩いの場である書道教室の屋上で不思議な老婆と出会う。ひそかは次第に老婆に心を開き、恋や家族の悩みを打ち明けていくが…。野中ともその同名小説を映画化。
9/4(金)全国公開
© 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会
配給:KADOKAWA
渡辺麻紀
ファミレスの紙ナプキン
オープニングが美しく期待が高まった。一応、ファンタジー仕立ての物語なのだが、そのファンタジー部分が背景も出来事も、かなり安っぽい。幻想的なオープニングだっただけにがっくりだったし、舞台が2005年にもかからず、その時代感も伝わらない。が、それらをカバーするほど主人公の女の子がとても上手だった。びっくり。ファミレスで、泣きだした彼女に紙ナプキンを差し出したいのに差し出せない少年のそのもどかしさ。青くっていいなーって。
★★★☆☆
折田千鶴子
果耶ちゃん主題歌もウマッ
果耶ちゃんの落ち着きが少々中学生に見えないきらいもありつつ、相変わらずの上手さと澄んだ空気でいい感じ。桃井さんも登場シーンは一瞬ギョッとなるが、噛むほどに味が出てくる。でも今回はズバリ、坂井真紀さん演じる“血の繋がらないお母さん”の感情と愛の発露に泣かされた。14歳女子の不思議な体験が、ファンタジーというより「そういうこと絶対あるハズだよね!」と言いたくなる“普通のこと”寄りの加減で心地よくストンと落ちる。藤井作品としては珍しく希望に満ち、こっち系もイケる。
★★★半☆
森直人
80s角川+米林宏昌ライク
『新聞記者』から一転、ずいぶん可愛らしいお話を手掛けた注目の新鋭・藤井道人監督。日常の風景にファンタジー成分を融合した作風は、適量の暗さやトゲも含めて、現代を舞台にしたジブリの少女映画の実写版みたいな趣(特に桃井かおり演じる「星ばあ」はそれっぽい)。全編、とにかく丁寧に撮られているのだけど、緩急が効いていなくてペタッと一本調子になっちゃった感はあり。KADOKAWA配給作だが、主演の清原果耶が自ら主題歌(作詞・作曲:Cocco)も歌うのは、80年代の薬師丸ひろ子や原田知世の角川映画っぽくていいな。
★★半☆☆
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