【28】商標登録は言葉の独占?(誤解あるある③)
こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
最近、近所の公園で生まれたカモの赤ちゃんを毎朝観察しています(笑)。
今回は、商標の「誤解あるある」シリーズの第3回です。
今回の内容は、個人的にはすでに何度も何度も、他の場所で書いています。
ですが、残念ながらあまり読まれていないようです(苦笑)。なので、ここ(note)でもしつこく(?)書いていきます!
さて、ネットニュースや新聞・テレビなどのメディアで、たまに商標登録が話題に上がることがあります。皆様も、なんとなく記憶に残っているのではないでしょうか?
その中でも近年よくあるのが、「〇〇〇という商標が、登録申請された!」というネタです。特に、申請(出願)をした人物が、その商標と所縁がない場合などに、話題になりやすいようです。そして、それについて一般の人たちから多くの反感を買って、ネットで炎上するというのが、だいたいいつものパターンですね(苦笑)。
ざっと思い出したところ、ここ数年では、「PPAP」、「そだねー」、「ぴえん」、「アマビエ」などが、そのような例として挙げられるでしょうか。他にもいろいろあったかもしれません。
流行語とか、パブリックドメイン的な語と同じ文字について、無関係の人が商標登録をしようとすることについては、たしかに私も思うところがあります。道義的に考えても、すべきではないでしょう。ただ、ネット上での一般の方々のこれらに対する意見やコメントを見ていると、商標登録制度の前提を誤解しており、「正論ではあるけれど、的外れ」となっているものも、正直少なくありません。
その代表的な誤解が、「商標登録がされると、その言葉が使えなくなる」というものです。たとえば、「アマビエ」が商標登録されると、日常生活で「アマビエ」という言葉が使えなくなる、と思い込んでいる人たちが少なくないようなのです。
おそらく、著作権の話とゴチャ混ぜになった誤解だと思われますが、そもそも(単語のような)言葉自体には著作権は認められませんので、どっちにしても誤解です。作った文章とか歌詞などには著作権が発生しますが、(単語のような)言葉自体に著作権が認められることはまずないのです。そりゃ、もしこれ自体に権利を認めて使えなくしたら、人々は意思疎通ができなくなり、まともな社会生活を送れなくなってしまいますから、当然と言えば当然ですよね。
また、商標登録制度の観点から見ても、これは完全に誤解です。
商標登録をすると、「商標権」という権利が発生しますが、「【3】商標登録のメリットとは何か?」でもお話ししたように、この商標権があれば、以下のような効果がありました。
・他社が、同じ商標を使うのをやめさせることができる。
・他社が、似ている商標を使うのをやめさせることができる。
ただし、商標登録は、「商標」と「商品やサービス」をセットで登録するものですから、これらの効果が有効なのは基本的に、あくまでも商標を使う商品やサービスが共通している(同一または類似する)場合に限られるのでした。
ということは、仮に誰かが「そだねー」とか「ぴえん」を商標登録したとしても、あなたが取り扱う商品・サービスがそれらとまったく違っていたり、そもそもそれらの語を商品やサービスに関連して使うわけではないのであれば、基本的にリスクはありません。
たとえば、あなたが個人の趣味で書いているブログの記事の中で、それらの語を使おうとも、また、趣味でやっているSNSの中で、それらの語を呟こうとも、商標登録との関係では基本的に問題ないのです。
考えてもみてください。皆、当たり前のように、次のように会話をしたり、ブログやSNSで書き込んだりしていませんか?
今日、ユニクロの隣にあるマクドナルドで、ビッグマックを食べたらめっちゃ美味しかった!そのあと、マツキヨでキレイキレイを買って、ロマンスカーに乗って急いで帰宅した~。1日楽しかった~。
ここに出てくるユニクロ、マクドナルド、ビッグマック、マツキヨ、キレイキレイ、ロマンスカー、これらは全て商標登録がされている「登録商標」です。もし、商標登録が言葉の独占になるなら、これらを使うことはすべてアウトになってしまいます。でも実際、そんなことはありませんよね? そう、商標登録は、言葉を独占するものなどではないのです。
ついでに言うと、商標権の侵害とは、基本的に「商標」を使った場合に起こるものです。ちなみに、「商標」とは、「【14】商標登録の対象になるのはどのようなものか?(後編)」でもお話ししたように、『「業として」商品・サービスに使う文字や図形』でした。
この「業として」というのは、「一定の目的の下に継続・反復して行う行為として」と解され、「業務として」とか「事業として」のようなイメージのものでしたね。
つまり、誤解によって、いろいろ心配している一般の方々も多いようですが、誰かが何らかの商標登録をしようが、基本的には自分が事業者でなければほとんど関係のない話です。一般の方々が、完全にプライベートの範囲内で使うということであれば、そもそもそれは「商標」を使うことにはならないでしょうから、商標権を侵害することなどないはずなのです(※ただし、ネットオークションやフリマアプリなどでは、それらの使い方によっては、個人でも「業として」とみなされる可能性が考えられる点には注意が必要だと思います。)。
ちなみに、ネットニュースなどで取り上げられ、炎上するような商標登録出願というのは、その後の特許庁の審査でだいたい登録拒絶となります。まず、実害が発生することはないのです。なので、「〇〇〇という商標が、登録申請された!」というネタに対しては、あまり過度に反応しないことですね(苦笑)。
というわけで、これらをちゃんと理解しておけば、ネットニュースなどで見かける「〇〇〇という商標が、登録申請された!」というネタに対して、世の中が「騒ぎすぎ!」、「心配しすぎ!」と、いつも私が感じている理由がおわかりになるはずです。
ただ、そこに多少の誤解があったとしても、一般の方々が商標や商標登録に興味を持つことは、良い傾向だと思います。あとは、もう少し正しい理解が付いてくれれば・・・という感じです。
というわけで、今回は「誤解あるある」シリーズの第3回として、「商標登録は言葉の独占?」について、お話いたしました。ご参考になれば幸いです。
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