商標弁理士と振り返るファミコンソフトのタイトルネーミング ~その2 単独既成語編~
こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
さて、商標弁理士である私が、(誰にも頼まれていないのに勝手に)これまでに発売されたファミコンソフトのタイトルをチェックし、それらのネーミングについて、独自にカテゴリー分けをした上で語っていこうという本企画(笑)。
前回の記事では、「単独造語」のタイトルを取り上げました。
今回は、引き続き「単独既成語」のタイトルを見ていきたいと思います!!
シンプルイズベスト?の単独既成語
ファミコンソフトのタイトルにおいても、ネーミングとして「単独既成語」が採用されているものは少なくありません。「単独既成語」というのも、これまた私が勝手に考えた言葉ですが(苦笑)、「既成語1語から構成されている」ネーミングとご理解いただくと、わかりやすいかと思います。
たとえば、「チャレンジャー」とか、「バナナ」とかですね。
ただ、ファミコンソフトのタイトルネーミングにおける「単独既成語」には、以下の2つのタイプがあると考えられます。
1つは、「ゲーム内容を漠然と表したもの」や「ゲーム内容には特に関係のないもの」。もう1つは、「ゲーム内容をそのまま意味するもの」。
もっとも、ゲーム内容を「漠然と表したもの」と「そのまま意味するもの」の境界は、かなり曖昧と言えるかもしれません。暗示的か、ごく直接的かといった感じでしょうか。それぞれの具体的なタイトルの例は、後で紹介いたします。
「単独既成語」のネーミングは、前回の「単独造語」とはちがってシンプルです。また、既成語は、それまでの人生で誰もが一度は見聞きしていることがほとんどと考えられます。したがって、このようなネーミングは、一般的に「覚えられやすい」という特徴があると言えるでしょう。また、「そのネーミングから内容が想像しやすい」という特徴もあると考えられます。
一方で、シンプルであるがゆえに、ネーミングとしての「インパクトが弱い」という一面があることは否定できないでしょう。また、インターネット検索においては、元の言葉などに紛れてしまうため、ピンポイントで相手に届くことがかなり難しくなります。
このような特徴がありますので、「単独既成語」のネーミングは、有名になって、ある程度周知されれば非常に強いネーミングとなる可能性を秘めている反面、場合によっては何の印象も残らない弱いネーミングになってしまう可能性もあると言えそうです。
うまくいっている身近な「単独既成語」のネーミングの一例としては、たとえば、iPhoneなどでお馴染みの「アップル」や、「LINE」などが挙げられるでしょうか。あ、まさに「note」もその一つですね。
どちらに転ぶかわからないという点においては、「単独既成語」のネーミングの採用というのは、ある意味、なかなかギャンブル要素があると言えるのかもしれません。
単独既成語からなるファミコンソフトのタイトルの一例
では、単独既成語からなるファミコンソフトのタイトルの一例を見てみましょう。
まずは、「ゲーム内容を漠然と表したもの/ゲーム内容には特に関係のないもの」の一例です。
続いて、「ゲーム内容をそのまま意味するもの」の一例です。
こちらは、任天堂によるファミコン初期のタイトルが多い印象です。
やはり、上述したように、非常によく知られているタイトルと、あまり記憶に残っていないタイトルの二極化があるような印象です。「チャレンジャー」や「MOTHER」などは、よく知られているタイトルだと思います。
商標実務的にはどうか?
商標実務的な観点(特に、商標登録の観点)からは、「単独既成語」のネーミングというのは、なかなか一筋縄ではいかない一面があります。なぜなら、構成がシンプルであるがゆえに、一般的には、同じ商標や似ている商標が、先に他人によって登録されている可能性が高まると考えられるからです。
ただし、どのような既成語が元になっているかにもよりますし、他人が同じような発想をしやすいかどうかにもよるでしょう。商標登録ができるかどうかは、「タイミング」や「運」の要素もあると言えるかもしれません。
「単独既成語」のネーミングを、商品やサービスの商標として採用することを検討する際には、必ず「商標調査」を実施しておくことがお勧めされます。
また、既成語であるがゆえに、他の語を付加したような他人の商標が、後から出てくる可能性も考えられます。たとえば、「チャレンジャー」で考えた場合、「〇〇〇チャレンジャー」とか「チャレンジャー〇〇〇」というネーミングが、後から他人に採用される可能性は十分に考えられるところです。
この「〇〇〇」が具体的に何になるかにもよりますが、この場合、たとえ「チャレンジャー」の語が共通していても、「チャレンジャー」と「〇〇〇チャレンジャー」や「チャレンジャー〇〇〇」は「似ていない」と特許庁が判断するような例は、実は少なくありません。
そうすると、たとえ「チャレンジャー」を商標登録していたとしても、後から他人の「〇〇〇チャレンジャー」や「チャレンジャー〇〇〇」にも商標登録が認められ、これらが同じ分野の商品やサービスに堂々と使われてしまうという事態も考えられます。こうなった場合、やはり先発としては気分が良いものではないでしょうし、「チャレンジャー」のブランド力低下が気になるところではないでしょうか。インターネット検索でも、お互いが混ざってしまうおそれもあります。
しかし、実際のところ、あらかじめ防衛する手段も講じにくく、よほど有名なネーミングになっていなければ、こういった後続の使用や商標登録を排除することは難しいと言えます。「単独既成語」のネーミングを商標として採用する場合は、こういったリスクにもあらかじめ留意しておく必要があるでしょう。
なお、「単独既成語」のネーミングが、商品やサービスの内容や特徴をそのまま意味するにすぎないようなネーミングは、それのみでは基本的に商標登録はできないことになっています。このようなネーミングからなる商標は、商品やサービスの「識別力がない」と考えられているからです。
たとえば、商品「りんご」に使う商標として「アップル」とか「青森」を商標登録しようとしてもダメだということです。ただし、あくまでその商品との関係性で判断されますので、商品「スマートフォン」に使う商標として「アップル」を商標登録することは可能です。
ちなみに、上述の「ゲーム内容をそのまま意味するもの」に当たるようなネーミングを、商品「ゲームソフト」について商標登録しようとしても、基本的には「識別力がない」として認められないと考えられます。
という感じで、今回はここまでとなります。
次回は、「結合語」のネーミングについて見ていきましょう!
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