商標弁理士と振り返るファミコンソフトのタイトルネーミング ~その11 「子供は読めない!」編~
こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
さて、商標弁理士である私が、全てのファミコンソフトのタイトルをチェックし、それらのネーミングについて独自に分類をした上で、関連する商標実務的な話もしながらコメントするという本企画。
今回で、第11回目となりました。
いよいよ、次回で最終回となります。
前回は、「伝説・冒険」を含むタイトルについて考察しました。
今回は、「子供は読めない!」タイトルを見ていきましょう!
大人でも読めない?「当て字」等ネーミング
さて、たとえば「ゼビウス」のような「単独造語」のネーミングは、「覚えられにくい」、「そのネーミングから内容がよくわからない」というマイナス面の特徴もある一方で、「一度覚えられれば、他と大きく差別化ができる」というメリットがあると考えられる点は、以前にお話ししました。
しかし、「他との差別化」という点においては、良いか悪いかは別として、それをさらに増大し得るネーミング手法があります。それは、「当て字」や「普通は読めない」ネーミングとすることです。
たとえば、有名な「聖闘士星矢」という漫画作品があります。
私が小さい頃には、アニメ化もされて、ものすごい人気がありました。
(今回は触れませんが、ファミコンでのゲーム化もされています。)
ですから、これを「セイントセイヤ」と、同世代なら誰でも読めると思います。
しかし、もしこれが初見のネーミングだったらどうでしょうか?
現代の若者が、初めて「聖闘士星矢」に接したら、どう読むでしょうか?
せいぜい、「セイトウシセイヤ」と読まれるのがオチではないかと思います。というか、そもそも知らなきゃ絶対に「セイントセイヤ」と読むのは無理でしょう(笑)。
漫画作品といえば、同じ頃に「闘将!!拉麺男」もありましたね。
これも、我々世代であれば、「たたかえ!!ラーメンマン」と難なく読めますが、知らない世代からすれば、(読めても)「とうしょう!!ラーメンおとこ」と読むのが普通だと思います。
そういえば、「宇宙皇子」という作品もありました。
これも、正しい読み方は「うつのみこ」ですが、知らない人が読んだら「うちゅうおうじ」と読まれるのが普通ではないでしょうか。
ここで挙げたような作品は、うまくヒットして人々に広く知られたので、結果的に、ネーミングによって他との大きな差別化に成功したと言えるでしょう。しかし、もし人気が出なければ、人々に「正しく読まれもせず」、「覚えられもしない」という、散々な泥沼ネーミングになっていた可能性も否定はできないはずです。
なお、「当て字」の場合だけでなく、「普通は読めない」ネーミングの場合も、同じような状況になり得るでしょう。特に、難読漢字であったり、日本人には馴染みのない言語のものであったりするような場合が、該当すると考えられます。
たとえば、大ヒットした「鬼滅の刃」の主要キャラクターである「竈門炭治郎」や「竈門禰󠄀豆子」のネーミング。これらを「かまどたんじろう」、「かまどねずこ」と初見で正しく読むのは、大人であってもまず困難だと思います。
これらのネーミングも、作品が爆発的にヒットしたおかげで人々に広く知れ渡ったので、今や唯一無二のネーミングのようになっていますが、一歩間違えれば「正しく読まれもせず」、「覚えられもしない」という、泥沼ネーミングになっていた可能性も否定はできないでしょう。
「当て字」や「普通は読めない」ネーミングは、ある意味で「賭け」のようなものです。まさに、「ハイリスク、ハイリターン」なネーミング手法であると、個人的には思います。
では、ファミコンソフトのタイトルには、このようなネーミングのものはあるのでしょうか?
実際に調べてみたところ、さすがに「子供は読めない!」と言えるような、「当て字」や「普通は読めない」ネーミングのタイトルがいくつかありました。
「子供は読めない!」ネーミングのファミコンソフトタイトルの一例
では実際に、「子供は読めない!」ネーミングのファミコンソフトのタイトルの一例を見てみましょう。
まず、個人的には、一番上に挙げた「絵描衛門」が、ファミコンソフトのタイトルの中では「最難読」ではないかと思っています。ちなみに、読み方は「デザエモン」となります。
次に、「魔鐘」。
一見、簡単に読めそうですが、意外と悩むのではないでしょうか?
正解は、「ましょう」です。
そして、「ラディア戦記 黎明篇」は、後半が読めません(笑)。
ちなみに、「れいめいへん」と読みます。
「黎明」には、「夜明け」という意味合いがあるようです。
ゲーム的には、「プロローグ」とか「第一章」のような意味合いでしょうか?
ちなみに、ファミコンで発売されたタイトルには、「黎明篇」以外の「ラディア戦記」はありません(笑)。なぜ、これまた「黎明篇」などという余分な語を付けてしまったのでしょうか…。
読めないし、続編も出ていないしと、何のメリットもないのにわざわざ「黎明篇」と付けたのは、さすがにタイトルネーミングとしては失敗だったと言わざるを得ない気がします。
続いて、「蒼き狼と白き牝鹿 元朝秘史」ですが、「あおきおおかみとしろきめじか げんちょうひし」と読むようです。これは、長いですが大人なら何とか読めなくもないでしょう。ただ、さすがに子供には無理な気がします。そもそも、子供は対象外のゲームだったのでしょうか。
最後に、「ジーキル博士の彷魔が刻」。
「ジーキルはかせのほうまがとき」が正解のようです。
子供にはまず後半が読めないでしょうから、親に「買ってくれ」と頼むこともできませんね(苦笑)。アクションゲームだったようですので、わかりやすく「ジーキル博士の冒険」などにした方が、売れたのではないでしょうか。
大変失礼な話となりますが、ここで挙げたタイトルは、いずれも爆発的にヒットした誰もが知るゲームソフトとは到底言えないでしょう。やはり、ネーミングというのは侮れないということを実感します。
商標実務的にはどうか?
上述のように、「当て字」や「普通は読めない」ネーミングは、ある意味で、「ハイリスク、ハイリターン」なネーミング手法であると考えられます。
ですから、こういったネーミングを、商品やサービスに関する商標として採用しようとする事業者も、当然ながら存在するでしょう。
実は、商標登録などの商標実務では、その商標の「読み方」が非常に重視されます。「商標が似ているかどうか」が判断される際にも、やはり「読み方が似ているかどうか」が、通常は大きな判断のポイントになってきます。
したがって、特に商標登録の場面においては、確実にその読み方がされるという商標を出願・登録しておくことが肝要です。
たとえば、上掲の「絵描衛門」を商標登録したとしても、これを普通に読めば「エカキエモン」となるでしょう。そうすると、たとえ自身が「デザエモン」と読ませる意図であったとしても、それが一般的に広く知られている等の事情がない限り、後から他人が「デザエモン」を登録出願した場合は、「絵描衛門」とは似ていないと判断されて、商標登録が認められてしまうことが考えられます。
同様に、たとえ「絵描衛門」を商標登録したとしても、他人が「デザエモン」の商標を使う行為に対しては、「商標が似ていない」という理由で、差止め請求などの商標権の効力が認められないということも大いにあり得ます。
ですから、こういった「当て字」や「普通は読めない」ネーミングの商標をしっかりと適切に保護するためには、意図する「読み方」の文字についても、商標登録をしておくことが大切と言えるでしょう。「絵描衛門」の場合は、「絵描衛門」の漢字に加えて、「デザエモン」の片仮名についても商標登録をしておくべきです。
なお、「それだと、2件分の登録費用がかかるから大変」という意見もあるでしょう。
そんな時は、たとえば、「絵描衛門」の上に、「デザエモン」の振り仮名を振った、二段書きの商標として、商標登録をするという方法もあります。
ただし、ここでは詳しくは述べませんが、この方法にはデメリットもあり、場合によっては「不使用取消審判」という審判が第三者から請求されて、登録が取消となってしまうリスクも考えられますので、お勧めできるものではありません。あくまで、商標登録はしておきたいが、どうしても2件分も費用をかけられないという場合に、リスクを踏まえた上で、苦肉の策として検討すべき手段となるでしょう。
「当て字」や「普通は読めない」ネーミングの商標の場合、適切な商標登録という観点では、通常、一般的な商標の場合よりも費用がかかってしまうという点は、覚えておくと良いかもしれません。
という感じで、今回はここまでとなります。
次回はついに最終回。最後に、「社名入り」ネーミングを見てみましょう!
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