虹色の雲
梅雨の明けた日のこと。
小さな君と、散歩に出かけた。
公園について、ベビーカーから降ろすと、まっすぐに、水辺へと向かう、君。
君が、頭から水の中へ落ちるのではないかと、追いかけるわたし。
小さな君は、迷うことなく、水に手を入れ、服がぬれるのもかまわずに、水と遊ぶ。
ふと、見上げた南の空に、虹色の雲がかかっている。
「ほら、見てごらん。」
君にも見てほしくて、君のとなりにしゃがんで、空を指さした。
「あ、あ!」
君がよろこんで指をさしたのは、西の空にある、入道雲。
「おっきい!」
目をキラキラさせて、笑顔で空を見上げている。
「こっちだよ、もっとこっちの空を見てごらん、ほら、虹の雲だよ、きれいだよ!」
どんなにわたしが、君の視線をうつそうとしても、君は、虹色の雲を見ることは無かった。
なんども、入道雲をゆびさして、笑う、君。
そうか、どんなにわたしが、君のことを大切に思っていても、君の見る世界を、決めることはできないんだ。
君の世界は、君が、つくるんだね。
わたしにできることは、君を見守り続けること。
君の見ている、その世界が、どうか、平和で、喜びにみちたものでありますように。
虹色の雲は、しずかに、消えていった。