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じゃんけんに勝ちたい手のはなし
つぶ君はいつもじゃんけんに負ける。
「また負けた。」親指のため息。
「なんで今日もパーを?!」中指が叫ぶ。
「仕方ないよ、つぶ君はまだ3歳だもの。」小指は皆をなだめ、
「そうよ、じゃんけんが出せるようになったばかりだし。」薬指が頷く。
それにしても、本当につぶ君は毎日お兄ちゃんとの勝負に負けていた。
昨日のおやつのとき。おやつのかごの中には、おせんべいとクッキーがひとつずつ残っていたんだ。
「つぶ、どっちにする?」お兄ちゃんが聞いた。
「くっきー!」とつぶくん。
「じゃあ、じゃんけんだな。」
「さいしょはグー!じゃんけん、ポン!!」
つぶ君はいつものパーを出した。お兄ちゃんは余裕のチョキ。
「じゃあ、つぶはせんべい、はい!」そう言うとお兄ちゃんはクッキーの袋をあけて半分かじると満足そうに笑った。
つぶ君はお兄ちゃんのクッキーのかけらがポロポロと床に落ちるのを見て、テーブルのおせんべいを見て、それを手に取ると、小さな手で袋をあけようとした。
「お兄ちゃん、あけて。」「ん。」
嬉しそうにおせんべいをかじるつぶ君の、せんべいの粉にまみれながら人差し指が言った。
「もうこれ以上ガマンはできん!」
その夜、つぶ君が眠った後、つぶ君の両手は話し合いをした。
「お兄ちゃんは、つぶ君がパーを出すのを分かっていて、絶対にチョキを出してくるでしょう?」
「だから、僕たちが全力でグーのまま動かないようにするんだよ。」
「そうだ、絶対に手を広げてはならない。」
「よし、がんばろう!」「おー!」
つぎの日。
つぶ君の手はがんばったんだ。本当に、だれもが手をぎゅっとにぎって、開かないように固まろうとした。
でもね、手はつぶ君の手だからね。つぶ君がパーにしようと思えば、パーを出してあげるようにできているんだよね。
「負けた。」
「くやしい!ぼくはアニメじゃなくて、恐竜のテレビが観たかったのに。」
「わかるわ。ティラノサウルスの指がどうなっているのか、気になるのよね。」
「でもさ、つぶ君負けてもさ、お兄ちゃんと嬉しそうにテレビ観てたよな。」
「やさしいのよ、あの子。」
「でも、勝たせてあげたいよなあ。」
「みんな、”神頼み”っていってな、どうにもならないときは祈るんじゃ。」
「そうね、だって私たち〝手”ですもの。」
両手たちは、つぶ君が寝返りをうつタイミングで、お互いの手のひらを合わせると、お祈りをした。
「わたしたちの大好きなつぶ君が、じゃんけんに勝てますように。」
それから何日かした、日曜日のこと。
ママの弟のたかおじちゃんが遊びに来たんだ。
「アイス買ってきたぞ。」
「ありがとう、こどもたち喜ぶわ。」とマ。。
「わー、たくさん入ってる!つぶ、どれがいい?」
お兄ちゃんに聞かれて、つぶ君はチョコレートにしたかったけど、チョコのアイスはひとつしかなくて、またもやお兄ちゃんとのじゃんけんに負けたつぶくんは、バニラアイスになった。
「ふーん。つぶ、ちょっとおいで。」コーヒーを飲みながらふたりの様子を見ていたたかおじさんが、つぶ君を呼んだ。
「じゃんけん勝負だ、さいしょはグー、じゃんけんポン!」
たかおじさんはグー、つぶ君はいつものパー。
「やったー!ぼく、勝ったの?」
「そうだ、パーはグーに勝つ。けどな、兄ちゃんのチョキには負けるだろ。じゃんけんは、いつも同じのばかり出したらダメなんだ。つぶは、パーだけじゃなくて、チョキとグーを出す練習をしてごらん。」
「わかった!」
それからつぶ君は、ひとりでじゃんけんの練習をした。手は喜んだね。大喜びで、つぶ君が難しいチョキでもパッと出せるように、みんなで協力した。
そんなある日、たかおじさんが飼い始めた犬をつれて、遊びに来たんだ。名前はハッチ。ハッチはまだ小さくて、ふわふわしていて、とてもかわいい。つぶ君もお兄ちゃんも、すぐにハッチが大好きになった。
「散歩に行くか?」おじさんがリードを出すと、大喜びでハッチがはねた。
「ぼくがもちたい!」「ぼくも!」
「じゃんけんだな。」と、たかおじさん。
つぶ君の両手に緊張がはしった。
「最初はグー、じゃんけんポン!」
お兄ちゃんは、チョキ。
つぶ君は、グー!!
「やったーーーー!!!」
つぶ君は大喜び。もちろん、両手たちもね。
たかおじさんは、「つぶ、じゃんけん上手になったな。」って、つぶ君とハイタッチしてくれた。両手はもう最高に幸せだった。
だからね、お散歩から帰ったとき、たかおじさんの背中にスペシャルマッサージをお返ししてあげたんだって。それはそれは、ていねいに、心のこもったマッサージをね。