一つ目小僧のはなし
一つ目小僧の家族は、町のすみにある集会所に住んでいました。
この春から小学一年生になった、一つ目小僧の男の子は、「いってきまーす!」今日も元気に集会所を出て、小学校に向かいました。
オバケたちの小学校は、夜10時に始まります。小学校はもちろん、人間の子どもたちが帰った後の小学校です。
「こんばんは!」
「こんばんは!元気?」
「ねえ、今日学校終わったら、西のお墓で遊ぼうよ。」
「いいよ、遊ぼう!」
のっぺらぼう先生がゆらりと教室に入ってきました。今日のお勉強が始まります。
「みなさんに、大事なことをお話ししますよ、オオカミオトコ君、前を向いてよく聞いてね。」
子どもたちはおしゃべりをやめて、先生を見ました。
「このあいだ、となりまちの小学3年生のオバケちゃんが、ニンゲンに見つかってしまいました。捕まらなかったから良いけれど、写真を撮られてしまったかもしれません。これは、とても怖いことなのよ。私たちは、ニンゲンに見つかると、ここに住むことができなくなります。みなさんは、決してニンゲンに近づかないように、見つからないように、気をつけましょうね。」
「はーい!」
帰り道、一つ目小僧はお友だちと西のお墓に向かっていました。
「コワイね。」
「なんでニンゲンに見つかっちゃったんだろうね。」
「今日は遊ぶのやめて、お家に帰ろうかなあ。」
「怖くないよ!ニンゲンなんて怖くない!おじいちゃんが言ってたもん!」一つ目小僧は、お友達のおしゃべりをさえぎって言いました。
「うちのおじいちゃんは昔、ニンゲンを怖がらせるのが上手だったんだ、すごく強かったんだぜ!」
「ふーん…でも、やっぱり、今日は怖いからお家に帰る。」
「じゃあね!」
「バイバイ、一つ目小僧君も、またね!」
みんなはお家に帰ってしまいました。一つ目小僧はくやしくてたまりません。「ぼくは、怖くなんかないぞ。だって、一つ目小僧だもん。」
次の日の夜、一つ目小僧は早起きをしました。時間は夕方の5時。いつもだったら、集会所の押し入れでグウグウ寝ている時間です。
お父さんやお母さん、お兄ちゃんに見つからないように、こっそりと集会所を出ると、いつもの小学校に向かいました。その途中の通学路に、女の子が三人、歩いているのが見えました。
「よーし、ひひひひ…おどかしてやるぞ。」
一つ目小僧は、お父さんの帽子を深くかぶって、そっと女の子たちのうしろに立つと、ゆっくりと歩いていきました。女の子たちのおしゃべりが聞こえてきます。
「おなかすいたねえ。今日のご飯はなにかなー」
「わたし、カレーライスがいいな。」
「いいね、わたしもカレー大好き!」
「うちのカレーはね、上に目玉焼きがのってるの。」
(目玉焼きだって?!)一つ目小僧は、ドキッとしました。
「へー、目玉焼きのカレーライス、美味しそうだね、わたしもお母さんに作ってもらおう。」
「ねえ、目玉焼きにはおしょうゆかけるの?」
「うん、目玉にしょうゆをかけて、スプーンでつぶして、それをカレーとまぜて食べるとおいしいんだあ~」女の子はうっとりと話しています。
(目玉をつぶすだって?しょうゆをかけて、まぜて、食べるだって?!)
一つ目小僧は立ち止まりました。
女の子たちが、後ろの一つ目小僧に気づいてふりかえります。
そのとたんに「ヒャッ!」っと声をあげて、一つ目小僧は逃げ出しました。
(やっぱり、先生の言ったとおりだ、ニンゲンは、怖い生き物だなあ…)
それからというもの、一つ目小僧はお約束をしっかりと守って、決してニンゲンに近づくことはありませんでしたって。