てるてるぼうず


ぼくは、てるてるぼうずだ。

ぼくを作ってくれたご主人は、この家の女の子。髪が長くて、お絵描きとマンガが大好き。

この家には他に、お母さんという、いつもご主人と一緒にお家にいる人と、お父さんという、朝出かけて夜遅く帰る人と、お兄ちゃんお姉ちゃんという、朝出かけて夕方頃に帰ってくる人たちと、あ、それから、ネコもいる。ネコも、ご主人とぼくと同じで、ずっと家の中にいて、外に行くことは無い。


なんでぼくが生まれたかっていうと、先月のことだ。

お兄ちゃんとお姉ちゃんの運動会があった。1週間前から雨の予報だったから、「晴れますように」って、優しいご主人がぼくを作ってくれたのさ。

ま、雨だったけど。

連日の雨で、運動会は、みごと、3日後に順延でした。

残念無念。


すみません、こんなもんなんだよ、てるてるぼうずって。もう、みなさんの気持ち、それだけで生きてる。

晴れて、喜んでくれたら嬉しい。

雨降っちゃったら、ごめんなさい。

そんなもんなんです。


で、その時ぼくを作ってくれたご主人は、どうだったかっていうと、ぼくにこんなことを言ったんだ。

「いいのいいの、雨でいいの。わたし、運動会なんて行きたくなかったんだから。」そして、にっこり笑ったんだ。

優しいだろう?だから、ぼくは、何の力もないけど、ただ、『このご主人が幸せでありますように』って、毎日祈りながら、ここにぶら下がってる。


ご主人は、学校ってところが死ぬほど嫌いなんだそうだ。それで先日、お母さんが、ちょっと面白そうなところがあるから、行ってみない?って、ご主人に話していた。

ご主人もお母さんのスマホの画面を「ふーん」って眺めていたよ。ご主人の「ふーん」はね、「まあ、行ってみてもいいかも。」ってことね、だって、嫌な時は「行かない」「絶対行かない」NOはNO、だから、ご主人は。


それで、昨日の大雨の日にね、ご主人はお母さんと一緒に、その〝ちょっと面白そうなところ”に行ったんだ。

朝からご主人が緊張しているのが、ピリピリと伝わってきた。

「行かなくてもいいんじゃないですか?」「家でいつものように遊びましょうよ。」ぼくも、ネコも、なんども声をかけたよ。けど、ご主人は白い顔をして出かけて行った。


ところがね、帰ってきたときのご主人の顔ったら!

頬は咲き始めのあじさいのように薄ピンク色に染まって、目は雨粒のようにキラキラしていた。

ああ、ご主人は、楽しかったんだ、良かったなあ、って、ぼくまで幸せな気持ちになったよ。

「あのね、大人も、子どもも、面白そうな人がたくさんいたよ。嫌な感じは全然しなかった。あそこは、大丈夫な気がする。行きたい、って気がする。」ご主人はぼくに、そう言った。

で、昨日の夜、お母さんとお父さんは、しばらく相談してたけど、来週の月曜日から、ご主人はそこに行くことに決まったらしい。


よし。


ぼくの、最後の、おおしごとだ。


月曜日を、晴れにする。


あー、梅雨前線に勝とうとか思っているわけではなくて、無理そうだったら、曇り、もしくは、小雨?…いや、せめて、ご主人が家を出るときだけでも、雨が止んでくれたらいいんだけれど。

本当に、お願い。


『てるてるぼうず、てるぼうず、あーした、てんきにしておくれ』




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