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うたわないとり
歌のじょうずな鳥がいました。
その鳥が歌いはじめると、山の中の鳥はもちろん、キツネやタヌキ、イノシシや、シカまでもが、うっとりと聴きほれたものでした。
歌のじょうずな鳥は、どこに行っても人気者です。
「すばらしい歌声ですね。」
「どうか、ここで歌ってください。」
彼が行くところには、いつもたくさんの鳥や動物が集まりました。
「あなたは、世界で一番素晴らしい鳥だ!」
そんな風に、彼をほめたたえるものもいました。
「それにくらべて、あの鳥の、醜いこと!」
一羽の鳥が声をあげた、その先には、ずんぐりとした鳥が、毛づくろいをしていました。
だれもみな、その鳥が歌っているのを聴いたことがありません。
「きっと、歌声も醜いにちがいない、見苦しい、あんな、歌わない鳥は、追いはらってしまえ!」
歌のじょうずな鳥がそう言うと、まわりの鳥たちは、口々に、からかったり、つついたりして、歌わない鳥を、追いはらってしまいました。
歌わない鳥は、しずかに、自分の巣に帰って、なきました。
「ああ、かなしい、ああ、さびしい、」
それは、ちいさな、ちいさな、やさしい歌声でした。
さて、そんな山の中で、歌の上手な鳥に、見向きもしない鳥がいました。
それは、明るいお日様のような黄色をした、とても美しい鳥でした。
「あの人が歌うよ、聴きに行こうよ。」と、友達にさそわれても、「ぼくは興味がないな。」と、しらんぷりして、どこかに行ってしまいます。
その行く先は、歌わない鳥のところでした。
この美しい鳥は、歌の上手な鳥の、いじわるで、いばりくさったところが、大きらいでした。
そして、歌わない鳥の、小さいけれど優しい歌声に気づき、とても、たいせつに思っていました。
ですから、彼を驚かさないように、いつも、そっとそばに行っては、歌声が聴こえるのを静かに待っているのでした。
歌の上手な鳥は、それが気に入りません。
仲間の鳥をけしかけては、歌わない鳥を、いじめました。
歌わない鳥は、言いました。
「ぼくは、どうして、こんなに、つまらないものなんだろう。もう、きえてしまいたい。」
「おい、歌わない鳥が、しゃべったぞ!」
「もっと、大きい声で言ってみろ!」
「何を言ってるんだか、さっぱりわからねえな!」
歌の上手な鳥と、まわりの鳥たちは、バカにして笑いました。
黄色の美しい鳥は、もう、がまんができず、さっと羽ばたいて、歌わない鳥のそばにいきました。
「さあ、行こう、ここは、ぼくたちのいるところじゃあない。」
そう言って、促すように、羽ばたきしました。
どこか遠くにきえてしまいたい、そう思っていた、歌わない鳥は、黄色い鳥について行こう、と思いました。
「どこへ行くというんだ?この山から出たら、死んでしまうぞ!」
歌の上手な鳥が、よく通る声で言いました。
「いいよ、だって、こんなところで生きていたって、死んでいるのと同じだ。」
歌の上手な鳥も、まわりの鳥たちも、しずかになりました。
「きみたちは、だれかの、弱いところ、人と違うところ、ダメなところばかりを見つけて、バカにして生きていけばいい。ぼくは、この、歌わない鳥の、素晴らしい歌声をしってる。」
そう言って、黄色い鳥と、歌わない鳥は、山の外へと、飛んでいきました。
日暮れまでまだ長い、夏のことでしたから、そうとう遠くまで、飛んで行ったのでしょうか。
その後、二羽の鳥の姿を見たものは、ありませんでした。
けれども、こうしてまた、夏がめぐってきますと、どこか遠くの、私たちの知らない、楽園のようなところで、あの黄色い鳥と、歌わない鳥が、自由に歌い、飛び回っているにちがいない、わたしは、そう思うのです。