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ふすまのオバケのはなし
日曜日の朝、ママが「お墓参りに行くよ」って言ったんだ。
「なんで?今日は買い物っていったじゃん。」
「買い物は、お墓参りの後ね。」
それを聞いてぼくのお腹の底にモヤモヤのカタマリがうまれたんだ。
「いやだ!お墓参りは行かない!」
「あ、っそ。じゃあお留守番ね。」
ママは妹のさきを連れて、玄関のドアをバタンと閉めた。
車のエンジン音がして、やがて静かになった。
あーもう、
あーもう、
あーーーーーもう!!!!!!
ぼくのモヤモヤは体中を包み込んで、畳の上に寝ころんでいた体が暴れだして、おさまらなくなっちゃって、足元のふすまをドンドン蹴とばしていた。
ようやくモヤモヤがおさまった時、ふすまにはちゅうっくらいの穴が開いていた。
「あれあれあれまあ」
そしてその穴から、けむりのかたまりみたいなのがにゅうっとでてきたんだ。
(うわあ、オバケ!!!)
「ああ、そうですね、そんなもんかな」
「ハハッ、穴、あけちゃいましたね。こりゃ、またママに怒られちゃいますね。」
けむりのオバケはふすまの穴を見て笑った。
オバケが隣のリビングに入っていくのを見て、ぼくはあわてて起き上がった。ママが帰ってくる前に、オバケをなんとかしなけりゃいけない。
「お腹がすきました、なにかありませんかね。」
「オバケっておなかすくのか?」
「そりゃまあ、ね。」
テーブルの上には、ぼくがまだ食べていない朝ごはんのトーストとスープとリンゴが並んでいた。オバケはそれを見てニヤリとした。
「ちょっとまて、それは…それは、”爪とぎ婆あ”の朝ごはんだぞ。」
「なんですか?ツメトギバア、って。」
「お前より、よっぽど強いやつだよ。ただのお婆さんに見えるんだけど、違う。見分け方はこうだ。やつの右手、右手の小指をよく見るんだ。他の指よりも小指の爪だけ長く伸ばしてる。その爪で、どんな相手も八つ裂きにして食べちゃうのさ。」
けむりオバケが少しブルブルっと身震いしたのがわかった。
その時、リビングの向こうのドアが、ガチャリとあいて、おばあちゃんが入ってきた。
「ああ、朝ごはんはまだかね?お腹がすいたよ。」
けむりオバケは椅子のかげから、おばあちゃんを見ているようだった。そして、おばあちゃんの右手の小指の爪を見つけたんだろう、「ヒャッ」と小さく息をして、あわてて隣の和室にもどるとふすまの穴にすべりこんだ。
ぼくはすばやくガムテープで穴をふさいだ。そして、なにごともなかったかのようにリビングのおばあちゃんに話しかけた。
「おばあちゃん、さっき朝ごはん食べてたよ。でも、いいよ、ぼくのスープあげるよ。」
「ああ、そうかね。」
そう言って、おばあちゃんと僕は一緒に朝ごはんを食べた。
「ね、おばあちゃんの小指の爪、どうして長いの?」
「ほうね、お菓子のセロハンをはがすとき、それからこうして、ほら、べんりじゃろう?」
おばあちゃんは、ポリポリと耳をほじってみせた。