黒い犬のおまけのはなし
とうとう、さいごの日をむかえることができました。
毎日一粒の童話を書こうと決めたのは、2021年6月6日のこと。
その少し前から、大好きな家族である、黒い犬は、ご飯を食べず、お散歩にも行かれなくなって、ただ、寝そべっていました。
声をかけると、その黒い瞳を向けてくれるけれども、すぐに、目をそらして、ハアハアと荒い息をするばかり。
わたしは、ただただ、おろおろしました。そして、なんども黒い犬の名前をよんで、「ありがとう」「だいすきだよ」と、やわらかな黒い毛をなでるのでした。
最後の日をまつばかりなんて、いやだ。
このこが去りゆく時間を、ただ消えて無くなってしまうのではなくて、なにかが生まれる時間にしたい。そう、思ったのです。
「おはなしを、つくろうと思って。」
わたしの声をきいて、黒い犬はこたえました。
「いいじゃない、前から、書きたいと思ってたでしょ。」
「できるかな?」と、わたし。
「もちろん、おかあさんなら、できるよ。」と、黒い犬。
「てつだってくれる?」
「ああ、もちろん。」そう言って、すこし、笑ってくれました。
だから、書いたことのない、でも、前から書いてみたかった『童話』をかいてみよう、と、決心したのです。
こどもでも、おとなでも、いぬでも、楽しめるような、おはなしを。
noteに投稿をはじめて、9日目。6月15日の朝に、黒い犬は、なくなりました。
(犬でも、49日くらいは、家族のそばにいてくれるのかもしれない。)
すがたは見えなくても、まだまだ、わたしのそばにいて、手伝ってくれているような気がして、黒い犬がいなくなってからも、書き続けました。
とはいえ、いつまでもわたしのそばに引き留めるのもいけませんから、この黒い犬との共同作業は、8月2日で終わりにしよう、と、決めていました。
そして、今日、8月2日を、むかえました。
【7月31日土曜日の朝】
(いま、どんなかんじ?)
黒い犬に聞きました。
『そうだね、とっても、楽になったよ。
体が無いと、かるいし、どこにでも行ける。
おかあさんが、ココロの中でよんでくれれば、すぐにかけつけられるしね。
今朝は、おかあさんがこれを書きはじめるまで、あのひまわりのあたりで寝っ転がったり、庭中のにおいをかいでいたよ。』
(やっぱり。そんな気がしてた。キッチンの裏にも来たでしょ?)
『うん、いたよ。ちょっとないてみたよ。わかった?』
(なんとなく、ね、わかったよ。)
『おかあさん、困ったこともあるんだよ。
あのね、しんじゃって、すぐのときは、ずっとお家にいたい、おかあさんや、おねえちゃんや、おにいちゃんと、ずっと一緒にいたい、って思ってた。
でも、でもね。
このごろは、おかあさんの顔とか、ちょっと、思い出せないときがあるんだ。声とか、匂いはちゃんと覚えてるんだけど。
ときどき、もう、いいかな?
ぼくは、ここにいなくても、いいかな?って、思うときがあるんだ。
そんなに、さびしいわけじゃないよ。
みんなを、好きじゃなくなったわけでも、ない。
なんか、もう、ほんとうに、さよならのときなのかもしれない。』
(そうか、そうなんだ、わかったよ。ずっと、一緒にいてくれて、ありがとう。これからも、ずっと、大好きだよ。)
『うん。ぼくも、みんなのこと、だいすき。ありがとう。
またね。
さよなら。』
これが、黒い犬とかわした、さいごのおしゃべりでした。
ありがとう。ほんとうに、ありがとう。
出会えたこと、一緒に生きた時間、とてもしあわせでした。
またね。いつか、また、どこかで会いましょう。
〈 黒い犬と一緒につくったおはなし ーおわりー 〉
(お礼のことば)
ご縁あって、ここにきてくださったみなさま、すきを押してくださった心優しいみなさまに、深く感謝申し上げます。
どうもありがとうございました。
そして、『あじさいへ手紙をかきました』というお話に、イラストを描いてくださった、ねじり様にも、こころよりお礼申し上げます。
https://note.com/nejiri/n/ne40f4810e815
『あじさいへ手紙をかきました』は、黒い犬がなくなった日の朝に、書いたお話でしたので、なにか、不思議な、ありがたい気持ちでいっぱいです。
どうもありがとうございました。
イラストや写真をお借りした皆様にも、深く感謝申し上げます。ご挨拶もせず、勝手にお借りした無礼婆を、どうぞお許しください。
どうもありがとうございました。
あと、一番の読者でいてくれた、娘と息子に、ありがとな。
黒い犬はもういませんが、これから、ひとりになっても、ぽつぽつと書き続けていきたいと思います。
ありがとう、大好きな黒い犬、アロハ。
黒い犬と共に 感謝をこめて
つゆ