ひまわりの花
夏の朝、ひまわりの花が咲きましたよ。
ひまわりは、ぐーんと、背のびして、あたりを見回しました。
この小さな庭に、ひまわりの種を植えてくれた、あのおばあさんは、どこかしら?
それから、おばあさんの隣で、いつも優しく笑っていた、あの黒い犬は、どこかしら?
ひっそりとした庭には、だれの姿もありません。
ひまわりは、ひらりと飛んできたチョウに、聞きました。
「このうちの、おばあさんは、どこかしら?あと、黒いワンちゃんと。」
「さあ、わたしは知らないわ。」
チョウは、向こうの畑へと、行ってしまいました。
そこで、ひまわりは、隣の木に止まっていた、カナブンに聞きました。
「ねえ、カナブンさん、おばあさんと、黒い犬を見かけなかった?」
「ああ、最近見ないね。梅雨の頃にはよくここに来ていたがね。」
そこで、ひまわりは、足もとを歩き回っている、アリたちに、聞きました。
「ねえ、アリさん、アリさん、おばあさんと、黒い犬は、どこに行ったの?」
「ああ、あの黒い犬は、もういないよ。おばあさんは、それからほとんど、外に出てこないのさ。」
ひまわりは、しずかに、空を見上げました。お日さまの光をあびて、じふんは、今、生きてる、と、思いました。
それから、おばあさんの家の窓から、中をのぞいてみました。
レースのカーテンの向こうに、おばあさんがいるのかどうか、よくわかりませんでしたが、夏の風にのせて、おばあさんを呼びました。
「おばあさん、おばあさん、ひまわりですよ。あなたの植えた、ひまわりが咲きましたよ。」
おばあさんは、キッチンで、ゆっくりとコーヒーを飲んで、ゆっくりとカップを洗っていました。
そのとき、なにかが庭で光ったような気がして、ふと、窓の外を見ました。
「おや?」
おばあさんは、サンダルをはいて、庭に出ました。何か光ったと思ったのは、二ヶ月くらいまえに、庭に植えた、ひまわりの花でした。
「いつのまに、こんなに大きくなって!見えるかい?あの時のひまわりが咲いたよ。」
おばあさんは、姿の見えない黒い犬に、声をかけました。
そして、ひまわりの花と一緒に、空を向いて、目を閉じると、しずかに、お日さまの光をあびていました。