毎日がお誕生日
「お母さん、このカップ、もうすぐお誕生日だね。」
朝ごはんを食べながら、女の子が言いました。
女の子のカップは、白くて、でこぼこしていて、カップの大きさにくらべると、取っ手がちょっと大きめで、ネコと、さかなの絵がかいてあります。
三年前の夏休み、旅行に行ったときに、陶芸体験をして、お母さんと女の子でつくったものでした。
「お誕生日か。そうね…3才になるのかな?」お母さんが言いました。
「ここにある、スプーンも、おはしも、お誕生日があるよね。」
女の子は、部屋を見回しながら、なにか考えているようです。
「この、ハイビスカスも、芽を出した日、お花が咲いた日がある。窓のガラスも、誰かがつくってくれた日がある。カーテンも、そこの本も、みんな、お誕生日があるよね。」
「すべてのものに、お誕生日がある、本当にそうだね。」
お母さんは、ごみ箱を見ました。
「こうして、すぐにお別れしていくものもある。この包み紙は、おばあちゃんからのお菓子を、大切に包んで、守って、うちまで来てくれたもの。でも、そのお役目はもう終わったから、こうして、さようならするのよね。」
「ぜんぶ、生まれた日の「おめでとう」があって、世界に出て、なにかと出会って、「ありがとう」をして、そして、「さようなら」って、別れていくんだね。」
女の子は、ごみ箱の中のものに、「ありがとね。」と言いました。
そして、「あ!時間!!」と、あわててランドセルを背負いました。
女の子が靴をはいている背中を見ながら、お母さんが言いました。
「今日、お誕生日のすべてのみなさん、お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうございまーす!いってきまーす!」
女の子は、元気よくドアを開けて、出ていきました。
まだ空はくもっていますが、鳥が鳴き、生まれたばかりのセミも鳴き、世界中がお誕生日のお祝いをしているような、朝でした。