いちばんすきな、のりものは?
ゆうた君は、園庭にねころんで、空を見ていました。
保育園のお外遊びの時間は、おしまい。もも組のおともだちは、お部屋に入って、お着がえをしたり、トイレに行ったり、給食のじゅんびをしています。
ゆうた君は、さっきまで「いやだ―、もっとあそぶ!」って、泣いていたのに、ずいぶんと、しずかです。
もも組の先生が、ゆうた君のそばにいって、声をかけました。
「ゆうた君、なにが見える?」
「ひこうき!ひこうきがキラッて、光ったんだよ! ほら、あっち!」
先生も、空を見上げました。白いひこうきが、飛んでいくのが見えました。
「ひこうき、見えたね。」
「うん!」
「給食、食べようか?」
「うん!」
給食の後は、お昼寝の時間です。
先生は、お昼寝の前に、絵本を読んでくれます。
今日の絵本は、いろいろな乗り物が出てくる絵本でした。
「みんなは、どんな乗り物に、のってみたい?」
読み終わると、先生が、ききました。
「ひこうき!」ゆうた君が、いちばんに、こたえました。さっき見た、キラリと光る飛行機に、のってみたいな。
「クレーン車!」と、こたえたのは、さきちゃん。
「しょうぼう車!」これは、こうき君。
みんな、思い思いの、乗り物を、こたえました。
先生は、そのたびに、「いいね、いいねえ。」と、その乗り物のページをひらいて、乗り物の絵を、見せてくれました。
「ゆうちゃんは? いちばんすきな、のりものは?」
さいごまで、しずかに聞いていた、ゆうちゃんに、先生が聞きました。
「うーーん・・・お母さんの、おんぶ。」
それを聞いて、先生は、ふふふっとわらいました。
「なるほど、おんぶか!それは、いいね! そりゃあ、どんな乗り物も、かなわないなあ。」
「わたしも、おんぶがいいな。」
「ぼくも!」
おともだちも、みんな、それがいちばんいいな、って、思いました。
その日の帰りのこと。
「さようなら~。」さきちゃんは、お母さんに、おんぶをしてもらって、帰って行きました。
「先生、さよなら!!」ゆうた君も、お母さんの背中から、うれしそうに手を振っています。
さきちゃんも、こうき君も、もも組のこどもたちは、みんなみんな、おんぶで帰って行きます。
「まあまあ、今日はどうしたの? お兄さん、お姉さんが、赤ちゃんになっちゃったのかな?」
園長先生は、笑いながら、手をふりました。
「こどもたちの、いちばんすきな、のりものなんですって。大丈夫、明日はきっと、もっとすてきな、お兄さん、お姉さんになってきますよ!」
もも組の先生は、うれしそうに、いいました。
園庭の、ひまわりの花が、夕方の風に、ゆらゆらとゆれていました。