一週間
「月曜日に市場へ出かけー」
湯船でママが歌っている。ママはお風呂でよくこの歌を歌う。特に日曜日のお風呂の中で。歌った後、「あーあ、明日からまた一週間が始まるなー」って言うんだ。私はシャンプーの泡が目や口に入らないように気をつけながら言った。
「ママ、市場に行くのは日曜日だよ。」
「うっそ!何で?日曜日はお休みだよォ、市場はあいてませーん。あー、日曜日が終わってしまうー、明日は仕事かぁ。」
私はシャンプーをいっぱい泡立てて、頭をソフトクリームみたいにぐるぐるにするのに挑戦していた。1年生なって、自分で髪が洗えるようになったんだ。流すのはママに少し手伝ってもらう。ママが、泡が残ってると、ヒフに良くないって言うから。
「ねえママ、”月曜日にお風呂をたいて~火曜日にお風呂に入り~”って、へんてこりんだねえ。お風呂冷めちゃうよねえ。」
「ぼぶばべえ、」ママは、ブクブク変な音を出しながらお湯につけていた顔をあげると「あの歌、たしかロシアの歌なんだよね。ロシアのお風呂って、サウナらしいよ。」
「へえー」サウナは知ってる。ママと時々行くおっきなお風呂屋さんにあるやつ。私はサウナが大好きで、ママと一緒に入るんだ。
「サウナの後の水風呂が最高なんだよねー。」私が言うと、ママは笑いながら歌いだした。
「水曜日は水風呂はいり~」
「木曜日は?」私は髪の毛をソフトクリームにするのに飽きたので、シャワーで流しながら聞いた。
「木曜日はー、もじゃもじゃオバケー」
私はあわててシャワーを止めると、湯船に飛び込んでママに背中をくっつけた。
「ママのバカ!」
「ごめんごめん、怖かった?」
「きらい!」
もじゃもじゃオバケは家にある絵本に出てくる。眠っているおじいさんの足元に出てきて、おじいさんを食べちゃうの。小さいときから私はこのもじゃもじゃオバケが怖くて、見ないように目を薄目にして、いそいでページをめくるようにしていた。1年生になったから、本当はあんまり怖くないんだけど、シャワーしている時はやっぱり背中が怖くなるでしょ?
「ほら、あわてて流すから、まだ背中に泡がついてるよ。」ママが言った。
「あ!ママ、上靴かわいてるかな?」
明日学校に持っていく上靴が、ベランダの軒下にかけっぱなしになっているのを思い出した。今日はずっと雨が降っていたから、乾いてないかもしれないな。
「そうだった、じゃあ、お風呂から出て、ドライヤーで髪の毛乾かしたら、上靴さんにもドライヤーをかけてあげましょう。」ママが言った。
「そうして、上靴が乾くと、一週間は、始まるのです。」
「へんなの。」私はクスクス笑った。ママの言い方がおもしろかったから。
「そうだよ、ママ、そうして月曜日は始まるけど、土曜日のお休みになったら、ジャンボ銭湯に行こうよ!」
「いいね~、サウナと水風呂ね!」
「ビンのコーヒー牛乳もね!」
上靴が、小さく笑うように、窓の向こうでゆれていた。