年齢という「神話」に頼らないための武器(植田かもめ)
植田かもめの「いま世界にいる本たち」第9回
"We Are All the Same Age Now: Valuegraphics, The End of Demographic Stereotypes"(私たちはみな同年齢である:デモグラフィック・ステレオタイプの終わりとバリューグラフィックス)
by David Allison(デヴィッド・アリソン) 2018年10月出版
老人もスマホでゲームをするし、若者も寄席に行く。
人の行動を決めるのは、「年齢」よりも、その人が「価値」を何に置くかだ。
本書"We Are All the Same Age Now"(私たちはみな同年齢である)は、年齢層による消費者分析を「時代遅れ」と切り捨てて、かわりとなる武器を提唱する。
バリューグラフィックスとは
多くの企業が、自社製品やブランドのターゲットが誰かを検討する際に、年齢や性別といった統計属性(デモグラフィックス)を使用している。
でも、それって果たしてどこまで効果的なのだろうか。
80年代半ばから広告代理店でキャリアを積み、現在は独立起業している著者のデヴィッド・アリソンは、年齢によるマーケティングに疑問を呈す。そもそも、自分の周りの同世代は、自分と似た人ばかりだろうか。デモグラフィックスは、人々が何を気にしていて、何が彼らの行動をモチベートするのかを語ってくれない。
世代よりも、価値観が同じ集団の方が、行動パターンが似通ったものになる。ソーシャルメディアなどを利用した約75,000人への調査によって、価値観の分類によるマーケティングツールである「バリューグラフィックス」をアリソンは構築した。
価値観によって人の志向性を分類
もう少し具体的に紹介してみよう。
バリューグラフィックスでは、所属、家族、健康、信頼、お金などなど数十の価値を対象者がどれぐらい重視しているかを調査する。
その結果を基に、10種類の「部族」を定義する。たとえば、好奇心旺盛で、新しいお店で食事をして新しい人との出会いを求める「冒険クラブ」(The Adventure Club)や、バターの特売のために45分かけて隣町までドライブするような「節約ソサエティ」(The Savers Society)といったグループである。
ただし、こうしたグループ分けをすること自体に目新しさはないだろう。
ポイントは、たとえばアメリカやカナダでそれぞれのタイプが人口の何%程度を占めているかを定量化しようとしている点だと思う。それがわかれば、どのグループをターゲットにすればどの程度の市場規模が見込めるかを言えるからだ。
バリューグラフィックスによって、「この年代の人に向けて製品/サービスを作ります」という議論を「価値観Xと価値観Yを重視する人に向けて製品/サービスを作ります」という議論に置き換えられると本書は言う。
世代にレッテルを貼るよりも価値を語ろう
さて、正直に言うと、本書は中立的な論考というよりは、著者のデヴィッド・アリソンによる自社と自社商品(であるバリューグラフィックス)の宣伝本である。
紙版で150ページ程度のライトな内容だし、文章は繰り返しも多い。価値観による分析自体も、まだまだ発展途上の段階だろう。
それでも、本書のコンセプトは面白い。年齢や性別といった「属性」ではなくて、何を重視しているかという「価値」で人を考える。この考え方は広く応用できると思うからだ。
たとえば「高齢者に健康商品はよく売れる」と言うと、当たり前に聞こえる。でも、本当は「高齢者になると、健康の"価値"が上がるから、健康商品はよく売れる」と考えるのが正しいのではないだろうか。
一見似ているようで、2つの考え方には大きな違いがある。「価値」が本質であるならば、高齢者でなくても健康を重視する人にその商品は売れるかもしれないし、高齢者であっても健康の価値が低い人にはその商品は売れないかもしれない。そんな風に発想を広げられるからだ。
本書はもともと、米国のミレニアル世代(1980-95年生まれ)の消費者をアリソンが分析したときに着想を得たという。完全な新人類であるかのように語られるミレニアル世代にも、実はベビーブーマーなど前の世代と多くの共通点が見つかった。年齢と消費者行動の相関関係は一般に思われているよりずっと低いのではないかと本書は語る。
「近頃の若い者は」と下の世代にレッテルを貼ることは、古来から続く人類共通の伝統芸みたいなものだと思う。
でも、雑に世代でひとくくりにするよりも、個人や集団がどんな価値を重視しているかを考える方が有益だ。価値観を考えることは、大げさに言うと、他者への想像力をはたらかせることでもあるのではないだろうか。
デヴィッド・アリソン著"We Are All the Same Age Now"は2018年10月に発売された一冊。「年齢なんてただの数字」("Age Ain't Nothing But a Number")だと知るための本。
執筆者プロフィール:植田かもめ
ブログ「未翻訳ブックレビュー」管理人。ジャンル問わず原書の書評を展開。他に、雑誌サイゾー取材協力など。
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