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【詩の森】もし僕が星野文昭さんを知らなかったら

もし僕が星野文昭さんを知らなかったら
 
僕が初めて
星野文昭という名を知ったのは
TPP反対デモで受け取った
一枚のチラシからでした
それから数年経って
思いがけず
星野文昭絵画展に出会ったのでした
そして
彼が獄中で描いたという
何百枚もの絵にも
初めて
ふれることになったのです
人の出会いが縁なら
これも何かの
縁だったのでしょう
 
もし僕が
星野文昭さんを知らなかったら
国家権力というライオンが
一市民に牙を剥くことなど
とうてい
思いもよらなかったでしょう
もし僕があの時
貰ったチラシを
読まずに捨てていたなら
星野文昭という名前も記憶に残らず
絵画展を覗くことも
なかったかもしれません
もし僕らが
お仕着せの情報だけを鵜呑みにして
自分から何も知ろうとしなければ
ほんとうに大事な情報が
僕らを素通りして
しまうでしょう
 
世の中には
たくさんの情報があふれ
僕らが処理できる量は
限られています
そのうえ
マスコミという
大きなスピーカーの前では
小さき者たちの声は
掻き消されてしまうのです
僕らの知らないところで
差別や貧困に喘ぐ人々
理不尽な仕打ちに
打ちひしがれている人々―――
例えば
いじめ自殺ということばは
学校そのものの問題を
被害者と加害者個人の問題に
すり替えているのでは
ないでしょうか
 
マスコミという
情報のハイウェイを
錦の御旗のように
政府のスローガンが通っていきます
しかしその御旗が
小さき者たちを
置き去りにしているのです
福島のある主婦はいいました
絆、復興、風評被害。
とてもじゃないですが、
受け入れられません。
全て誤魔化しのことばに聞こえます。
僕らはもう
ただ受け取るだけの
お仕着せの情報から
抜け出すときでは
ないでしょうか
 
もし僕が
星野文昭さんを知らなかったら
国というものの本質に気づくことなく
何も知らないお人好しのまま
一生を終えたことでしょう
もし僕があの時
一枚のチラシに
出会わなかったら
もし僕があの時
星野絵画展に立ち寄らなかったら―――
僕は今でも
星野文昭さんを
知らずにいたことでしょう
今にして思えば
あの一枚のチラシは
小さき者たちの
声なき叫び
だったのです―――
 

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