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【詩の森】718 忙しさの風

忙しさの風
 
酒井抱一に
国宝『風神雷神図屏風』がある
その裏面は『夏秋草図屏風』だ
その草花が
折からの風に吹き絞られるように
大きく靡いている
風神の風袋が少しひらいて屏風の裏へ
回り込んだという見立てだろうか
秋風を金風白風などといい
色なき風ともいう
 
秋風なら
ずっと吹かれていたい気もするが
定年になるまで
僕は忙しさの風に吹かれ通しだった
それが殊に酷くなると
一月に一句も俳句ができないのだ
いくら待っても
俳句の神は現れず
ただ忙しさの風に
追い立てられるばかりだった
 
定年になって十年
古稀になって
やっと分かったことがある
忙しさの風の出どころのことだ
全ての風の出どころが風神の風袋なら
忙しさの風の出どころは
なんと銀行だったのである
かつてケインズは孫たちの時代には
週に三日も働けば充分だろうと
予想していたという
 
しかし現実にはそうならなかった
何がそれを阻んだのか
問題の核心は
通貨発行権を誰が握っているか
ということに尽きるだろう
通貨発行権とは文字通り通貨を発行し
通用させる権限のことだ
江戸時代までは通貨発行権を
幕府や藩が握っていた
これを公共貨幣システムという
 
明治政府は
当初太政官札という不換紙幣を発行した
ところが
1882年に日本銀行が創られると
通貨発行権は銀行に委譲された
『公共貨幣入門』の著者山口薫さんは
これを国盗りと称している
爾来政府の歳入源はもっぱら
税金と国債の発行のみに
なったというのである
 
銀行は国債を引き受ける形で
国にお金を貸すことができる
つまり国家の上に銀行が君臨しているのだ
銀行はどこから大金を調達できたのだろうか
それが銀行のもつ打ち出の小槌『信用創造』である
ウィキペディアには
信用創造とは、一般的に銀行が返済能力のある企業
等の資金需要に応じて、借り手の預金口座に貸出金
相当額を記述し、預金通貨を生み出すことを指す。
とある
 
創造された通貨は
返済時には消滅するのだが
銀行の手元には
複利で積み上がった利子が残るという寸法だ
つまり銀行は通貨発行権を握ることで
国の金貸しの地位を築いたという訳なのだ
これが債務貨幣システムである
世の中がこんな仕組みなら
だれもが大金を稼いで
不労所得者になることを夢みるだろう
 
借金をして事業を起こした起業家は
複利という過酷な利子を返済するために
がむしゃらに働くこと余儀なくされるだろう
会社に借金があれば従業員も無事ではいられない
加えて株主の取り分まで稼がなくてはいけないのだ
債務貨幣システムが
社会を金狂いにした張本人ではないだろうか
しかし銀行家はこう嘯くに違いない
それで資本主義が発達し豊かになったのだから
よかったではないかと―――
 
銀行は通貨量をコントロールし
景気変動を生み出せるのだ
銀行は通貨の神になった
そして複利を貪るあくどさも備えている
銀行カードローンや銀行傘下の消費者金融の利率は
概ね3~18%程度だ
18%といえば4年で返済額が倍になる利率である
僕らが忙しいのは
複利を貪る不労所得者に優雅な暮らしをさせるため
だともいえるだろう
 
銀行の打ち出の小槌と
法外な複利のシステム
そこで発達した資本主義は
人々の生業を潰す強欲なシステムである
それはまるで社会が毒を煽りながら
生き延びているようなものではないだろうか
複利はどれだけの人々の命を奪ったことだろう
それはまた生きとし生けるものの
かけがえのない時間を
今も奪い続けているのである!
 
2024.9.26

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