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【詩の森】714 お金が生まれ消える時

お金が生まれ消える時
 
感情のあえかな揺らぎを
掬い取るのも詩なら
この世界の真実の姿を
鷲掴みにするのも詩であろう
何百万という心優しき者たちが
暗闇に逃れるように家に引きこもり
息を潜めているという
嗚呼何という時代なのだろう
僕らの世界はすでに
壊れかけているのだろうか
 
とある評論家が
いみじくもいったように
もはや金狂いの世の中なのだ
殊の外それが酷いのは
ここ数百年来のことだろう
実体経済を遥かに凌ぐお金が
金融経済をゲームのように
駆け巡っている
その莫大なお金はどうやって
生まれてきたのだろう
 
お金がどこでどのように生まれ
どのように消えてゆくのか
君は考えたことがあるだろうか
愚かにも僕はよく考えもしないで
のうのうと生きてきた
僕がいっているのは
日本国硬貨や日本銀行券などの
いわゆる現金のことではない
その十倍以上も流通している
預金やプリペードカードの数字のことだ
 
銀行は集めたお金を
貸出しているのだと僕はずっと思っていた
しかし実態はかなり違う
銀行は借り手さえいれば
無からお金を創れるのである
例えば1000万円を借りたい客がいれば
その客の口座に1000万円と
書き込むだけでいいのだ
世の中に新たに1000万円が
生まれた瞬間である
 
これは「信用創造」と呼ばれている
しかし何と漠然とした響きだろう
経済学者の山口薫さんは
その著『公共貨幣入門』の中で
端的にそれを「預金創造」と呼んでいる
お金が生まれるのが貸出し時なら
それが消滅するのは返済時だと
すぐに察しがつくだろう
銀行は社会にお金を供給することで
経済を活性化しているのだ
 
信用創造はまさに
銀行にとっては打ち出の小槌であろう
しかし現行は無制限に小槌を振れるのだろうか
いいやその上限を決めているのが預金準備率だ
銀行は貸付け額の預金準備率相当分を
日本銀行に預ける決まりなのである
預金準備率は現在
0.05~1.3%といわれている
仮に1%なら1億円預けておけば100億円まで
貸出すことができるのだ
 
もし銀行が友人間の貸し借りのように
無利子で貸出しを行っているのなら
彼らは篤志家ということになるだろう
しかし実態は勿論そうではない
「信用創造」が銀行特権なら
もう一つの特権は金利を決める権限である
彼らは預金と貸出し金利を自由に設定できるのだ
そして銀行権力をここまで肥大化させたのは
アインシュタインが世紀の発明と呼んだ
複利なのである
 
72の法則を君も聞いたことがあるだろう
もし君が100万円を
年利3%で銀行に預けそのまま放置すると
24年後には200万円になっている
単利の33年を9年も短縮できるのだ
これは72を3で割っただけの簡単な計算だ
逆に借りる時は年利18%なら4年で2倍になる
カードローンやキャッシングはいわずもがな
高額で返済期間の長い住宅ローンなどでも
相当の利子を負担することになるだろう
 
人々が借金してくれるほど
経済規模は大きくなり銀行は儲かる仕組みだ
しかも銀行は無から創ったお金で
利子を貪ることができる
起業家が借金をしてまで事業を起こすのは
利子を貪る側につきたいからだろう
しかし打出の小槌をもつ銀行とそうでない個人では
初めから勝負がついている
資本主義国がこれほどの経済成長を遂げたのは
金持ちになりたいと人々が願ったからだ
 
そして今やこの国も借金漬けだ
何故なら国の歳入は国債という借金と
国民の収める税金に限られているからだ
国債を購入した銀行がその利払いを享受しているのだ
僕らは自分の借金を働いて返し
さらには国の借金の利払いまで
税金という形で返し続けている
これが山口さんのいう債務貨幣システムである
1882年の日本銀行設立は
近代版国盗り物語の序章だったのだ―――
 
『公共貨幣入門』よれば
通貨発行権は
それまで時の支配者のものだった
これを公共貨幣という
古くは奈良時代の和同開珎に始まり
江戸時代の慶長小判や文政小判
そして明治になっても
太政官札などが発行されてきたという
公共貨幣システムには実に
1000年を超える実績があるのだ
 
銀行は「信用創造」によって
お金を創ることができる
誰にどれ位貸出すか決めることができる
さらには金利を設定することもできるのだ
これらの権限は最終的に
貨幣の流通量をコントロールし
景気変動を生み出す力にもなるだろう
バブルとは銀行による
過剰な貸出しの結果に他ならない
銀行が黒幕なのである
 
多くの民主主義国では
国はすでに銀行に乗っ取られている
といえるだろう
それは一言でいえば通貨発行権を
誰が握るのかという問題である
そして経済の安定はその流通量を
どうコントロールするかにかかっているのだ
戦争ほど莫大な金食い虫はいない
戦時国債は戦後ただの紙切れになった
庶民が託した金は全て戦争屋に流れたのだ
 
しかし
幸いにもこの国には憲法9条がある
二度と戦争しないと国に誓わせ
通貨発行権を国に戻すことができれば
僕らはもっとのんびりと
心豊かに暮らせるのではないだろうか
債務貨幣システムによる借金が
僕らを追い立てているだけなのだ
そして不労所得者の優雅の暮らしを
知らぬまに支えているのである
 
借金を返済できなかった人たちの
悲しい末路を僕らはいくつも聞かされている
バブルが弾けた後銀行は救済されたが
借金した人が救済されることはなかった
バブル期の金利は
今では考えられないほど高いものだった
借りる方も借りる方だか貸す方も貸す方である
現在消費者金融の金利は3~18%
その殆どが市中銀行の傘下にあることを
君は知っているだろうか
 
現代社会には
戦や争いといった言葉が溢れている
受験戦争・就職戦線・出世争い・過当競争
世の中を競争社会にしたのは
紛れもなく資本主義であろう
『公共貨幣入門』の中で山口さんは
金融システムの「複利」というルールが
債務者に拡大生産と過剰消費を強要させ
生態系の破壊や環境汚染を招く
根本原因になっていると指摘している
 
1%対99%といわれてすでに久しい
世界は絶対格差に向かっているといえるだろう
どんなに働いても
富裕層に上がりを絞り取られる社会に
僕らは生きている
それが債務ということの意味なのだ
すべての根源はこの債務
貨幣システムにあるのではないだろうか
その打開策が公共貨幣システムだと
山口さんはいっているのだ
 
2024.9.22
 
 

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