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【詩の森】忖度と惻隠(そくいん)

忖度と惻隠(そくいん)
 
惻隠ということばを知ったのは
韓国のドラマだった
急いで調べてみると
いたわしく思うこと、あわれみ
とある
惻隠の情ともいうそうだ
孟子は
「惻隠の心無きは、人に非ざる也」
とまでいっている
ドラマのなかでは
更に進んで
放っておけなくて
手を差し伸べる人というふうに
解釈していた
憐れみを感じても
手助けするとなると
なかなかそこまでは
できないものだと―――
 
この惻隠の情とは
人が生まれつきもっている
ものなのだろうか
それとも
教育によって培われる
ものだろうか
水俣病患者に寄り添った
石牟礼道子さんは
それを「もだえ神」と呼んだ
何も出来なくても
いっしょに
悶えることはできると―――
 
沖縄ではそれを
「ちむぐりさ」
というのだそうだ
ちむぐりさ、肝苦りさ。
あなたが悲しいと、私も悲しい。
共に分け合うという
意味だそうだ
日本語のなかにも
「貰い泣き」、「貰い涙」
というのがある
僕の母は生前
テレビで痛ましいニュースが
流れるたびに
台所でよく泣いていた
僕の泣き虫は
母譲りかもしれない
 
明治になって
誰でも学校に
いけるようになったが
一所懸命勉強するのは
立身出世のため
ということになった
一所懸命勉強した数%の人が
官僚になって
この国を動かしている
近頃流行りの忖度も
他人の気持ちを推し量るのが
原義だが
相手が人事権をもつとなると
忖度は途端に保身に変わる
この変わり身の速さ―――
忖度と惻隠
大事なのは
どっち?
 
2021年4月4日
 
 

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