【詩の森】704 天国からの絵画展
天国からの絵画展
無実の罪で服役し
獄中で死んだ人達を知っていますか
星野文昭さんもその一人です
司法が国家権力に加担し
罪をでっち上げたのです
29歳からの44年に及ぶ獄中生活は
彼の病死によって終わりました
享年73歳―――
しかもその病に対する適切な処置さえ
国は怠っていたのです
国家権力がガリバーの靴なら
人権は一匹の蟻のようなものかもしれません
特にこの国では―――
しかもその人権を守るべき司法が
国に加担しているのです
その理由はこの国の仕組みにあります
裁判官の人事権を握る最高裁長官を
内閣総理大臣が任命できるのです
仕組みを変えなければ
恐らく何も変わらないでしょう
星野さんは学生運動を潰すための
見せしめにされたのだと僕は思います
そのために自由を奪われたのだと―――
無実の人が拘束され
本来罪を償うべき人がのうのとしている国に
正義はあるのでしょうか
統治の要諦は恐れさせることだと
きっと彼らは考えているのでしょう
そのための見せしめであり
死刑制度の温存なのだと僕は思います
しかし監獄の中で
星野さんは精力的に抗い続けます
獄中結婚した暁子さんとともに
獄中からメッセージを出し続けていきます
そして絵の具の支給を勝ち取り
暁子さんに捧げる水彩画を
こつこつと描き続けるのです
獄中で紡ぎ出された200点余の水彩画は
そのまま彼の関心の在り所
星野さんの世界そのもののようです
そこには故郷の山河もあれば
沖縄の草花やちゅら海
異国の子供たちや暁子さんの
ポートレートもあります
それらの絵を介して
ふたりは対話していたのでしょう
絵の具を節約するためだったいう淡いタッチ
しかしその清冽さに引き込まれて
いつのまにかあなたも
佇んでしまうことでしょう
星野さんはあらゆる場面で
「すべての人間が人間らしく生きられる社会」を
訴えていました
暁子さんとの間に交わされた膨大な獄中書簡―――
その最後は手術前夜のものでした
そこには病気を克服して
再び抗おうとする気概と希望が溢れていました
冤罪という過酷な状況下でも
星野さんは最後まで人を信じ
希望を捨てることはなかったのです
天国からの絵画展
この不思議なタイトルを見かけたら
ぜひ立ち寄ってみてください
星野文昭さんを知れば知るほど
この社会がどんなに理不尽で人を疎外しているか
思い当たることがきっとあるはずです
ひょっとしたら天国から
星野さん声が聞こえてくるかもしれません
彼は誰もが人間らしく生きられる社会を
誰よりも願っていたのですから―――
2024.8.30
『あの坂をのぼって』星野文昭・暁子獄中往復書簡 アーツアンドクラフツ