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【詩の森】675 言葉を尽くす

言葉を尽くす
 
勘違いや誤解や
おぼろげで断片的な知識―――
僕らがほんとうによく分かっていることは
意外に少なくて
僕らはただ
みんなもそういうからという理由で
マスコミのふりまく幻想に
安住している―――
 
古来稀なりといわれるほど
長生きした僕も未だに何も分からないのだから
僕には遺言なんてとても無理だろう
分かるということは考え抜いた挙句に
漸く訪れる天啓のようなものだからだ
しかも何かが分かる時には
分からないことが何かも初めて分かるのだ
その呆れるほどの多さも―――
 
おもえば
先人達の残してくれた書物も
格言も諺もみな遺言だったのではないだろうか
あの芭蕉さんも
季語の一つでも創出できたら、
それは後世へのすばらしい贈り物だ
といっている
僕は後世に何か言葉を残せるだろうか
 
日本語で表記すれば
読んだだけで分かるのに
英語の頭文字やカタカナ語がやたら多いのは
いったいどうしたことだろう
分からない話でも誰も咎めないのは何故だろう
意味不明でもやり過ごしてしまうのは―――
それでは折角の話し合いも
役には立たないだろう
 
それだけではない
僕らが言葉に無頓着でいることは
実はとても怖いことなのだ
僕はいぜん武器輸出三原則が
防衛装備移転三原則に言い換えられたのを読んで
とても驚いた
言葉を言い換えるのはそれが邪魔だからだ
名を変えて武器輸出をしたいのだ
 
確かに言葉の盛衰はあるだろう
しかし
言葉を挿げ替えたり流行らせるのは
隠された意図があるからに違いない
たとえば忖度は
上位者による指示を不問に付し
自己責任は
政治責任を忘れさせてきたのである
 
先人達の残した言葉に
『言葉を尽くす』というのがある
国会で答弁する政治家は
はたして言葉を尽くしているのだろうか
スウェーデン人は政治家が信用できるという
この国と何が違うのだろう
かの国の政治家は自分の言葉で話し
この国では官僚の作文を棒読みする
 
僕らが言葉に
無頓着になればなるほど
虚ろな言葉がこの国を
暗雲のように覆ってしまうだろう
言葉は信頼の証 この社会の紐帯なのだ
それゆえ政治家の空虚な言葉も
ましてや嘘など
以ての外なのである
 
2024.7.13

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