INIQUITOUS DEEDS / Incessant Hallucinations【音楽レビュー】
Merciless Disintegration
Cryogenic Imprisonment
Imposition of Depravity
Embryonic Malformation
Embittered Materialization
Abstract Vibrations Compressed
Incessant Hallucinations
Infinitive Putrefaction
US産テクニカル・ブルータルデスメタル、2015年リリースの1stアルバム。
2023年3月時点で、これが最新作。
まずは、見れば見るほどに素晴らしいジャケットアートワーク!
邪悪な植物のようなものが眼球型の胞子または種子を撒き散らしながら猛スピードで闇を駆け巡り…世界を破滅へ追いやる発端の一幕を描いたかのような情景で、空恐ろしさを感じる。このタッチはもちろん、ブルデスアートの巨匠Jon Zigの作品。
そしてこの世界観はそのままサウンドの雰囲気を表している!
矢継ぎ早に繰り出されるリフはギュルギュルと唸りを上げ、鳴り続けるスネアやバスドラ、ベースのうねりと一体となって全てを巻き込みながら猛進、その奥底から鈍い摩擦音のような超低音ガテラルヴォイスが響く。
基本的なスタイルとしては、不協和音によるカオティックな雰囲気を漂わせながらもテクニカルで細かいフレーズをこれでもかと詰め込んで、叩きまくり刻みまくって曲を紡いでゆくUS型ブルータルデスであり、強いて言えばDISGORGEやINHERIT DISEASE、DEFEATED SANITYあたりに近い印象を受けた。爆走一辺倒では無くスラムパートも絶妙なバランスで混ぜ込んでくるがそれが主となることはなく、あくまでピュアブルータルデスの範疇。
サウンドプロダクションはこの手のブルデスとしては極めて良好でどのパートも何をやってるかちゃんと聴き取れる。ただテクニカルなだけでなくしっかりとフックの効いたリフで構成されていることが判って、純粋なかっこよさが際立つ。演奏が凄い、ヴォーカルがえげつない、だけで終わる凡百のブルデスとは一線を画している!
レコーディングとミキシングはバンド自ら手がけており、サウンドへの拘りが感じられる。そしてマスタリングは、あのVILEのColin Davis。
メンバーは、
Mike Simon … Vo.
Niko Kalajakis … Gt.
Chris Stratton … Ba.
Matt Kilner … Ds.
更に曲の良さを強力に高めているのがMattのドラム。希代のリフメイカーのNikoと共にINIQUITOUS DEEDSの要と言って過言では無い。
激速プレイながら芯の通った音を鳴らしており、特にスネアが胴の響きが感じられるめちゃくちゃ好みの音をしている。どことなくパーカッシヴであったり、リフに合わせて歌っているような叩き方をすることがあるのが尚良い。個人的には、これからのブルデス界を背負って立つようなドラマーだと思っている!
Mattはマルチプレイヤーでもあり、一人ブルデスプロジェクトNITHINGもやっているほか、2018年からはブルデス界の大御所GORGASMのドラマーとして加入し、VITRIOLにもライヴメンバーを経て2023年から正式に加入している。
ベースのChrisは同系統のブルデスバンドINEFFABLE DEMISEでも活動中。彼が唯一YOUTUBEにあげているのは、INIQUITOUS DEEDSのTシャツを着てINEFFABLE DEMISEの曲を弾くベースのプレイスルー動画。自分のバンドへの愛を感じる!
なお本作で最高のガテラルヴォイスを披露しているMikeは、非常に残念なことに2016年に脱退しており、後任にはINHERIT DISEASEのObie Flettが加入し現在に至っている。
1 - Merciless Disintegration
水中深くで人知れず、邪悪な存在が活動を始めようとしている光景を想像させる不穏なSEから、引きずるような超重ガテラルの呻きと共に始まる重心低めのスローなイントロは、ジワジワと汚染が拡大していく様を思わせる。そしてブラストで一気に猛威を振るう!
最初にSEがあるとはいえ、この手のジャンルにしては珍しいトータル6分超えの曲だが長さを全く感じさせない超名曲で、特に4:33~4:42頃のダンサブルなリフとそれにシンクロさせたドラムがたまらん。
2 - Cryogenic Imprisonment
冒頭のテクニカルながらも耳に残りやすいキャッチーなリフが印象的。中盤以降はズンズンズンズンと地を這うようなスラミング的なヘヴィフレーズが中心、とは言えMattの手足は基本、細かく動き続けている。ジャ~~ンで曲が終わるかと一瞬思わせて、チャイナシンバルを1発入れてまたしてもダンサブルな感じのフレーズに繋げる終盤の展開がまた最高!
3 - Imposition of Depravity
突如鋭く斬り込んでくるような入りから一気に畳みかけてくるスピード感のある前半に続いて、中間部分には1分以上にわたってじっくり演奏を聴かせるインストパート。その開始地点1:27頃〜のギターの刻みとパーカッション的雰囲気のスネアのコンビネーションは特にこのバンドらしさを感じる。
4 - Embryonic Malformation
ギターとドラムがブレイクをきめる中でグネグネ動き続けるベースのかっこよさよ…!そして勢いそのままのベースに絡みつくように入ってくるブラストで爆走してゆく!1:52の所で終わってもよさそうなところ、最後にもう一展開持ってくるのがさすがですな。
5 - Embittered Materialization
土煙が上がってそうな爆走で始まり、地響きのようなガテラルを乗せて最後までほぼ手を緩めること無く突進してゆく、爽快というほかない3分半。あまりに心地良いので、娘が0歳時に抱っこしながら聴かせてみたらすぐにスヤスヤと眠ったので子守唄にもぴったりと証明された。本編終了後には、何か起こりそうな怪しげなギターが響き…
6 - Abstract Vibrations Compressed
#5の終わりで圧縮されていたエネルギーが発散されて災厄の第二波が襲いかかってくるかのごとく、こちらも壮絶な勢力を維持して突っ走る一曲。特に2:32頃~は激速のギターの刻みとブラストによって体感スピードが極限まで上昇し、15秒ほどのあいだ息が止まる!
7 - Incessant Hallucinations
どこか余裕があって軽快さすら感じさせるイントロから、ヴォーカルの入りと共に鬼気迫る演奏にスイッチ!この切り替えがゾクゾクする。全員ピタっと止まったり、ギターだけが抜けてブラストのスコココココココが強調される小節があったりと、特に前半のメリハリの効いた曲展開が魅力的!
8 - Infinitive Putrefaction
安定のINIQUITOUS DEEDS節を散りばめて突き進んでゆくが、特筆すべきはラスト1分半弱。プログレッシヴかつダンサブルな雰囲気でありながら、世界が毒され狂ってしまったかのような不気味さをも秘めている。最後の最後に、今までに無いこの感じを持ってくるセンス、最高か…!