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マーマレードは父の味、親父の生姜焼き。/NEUT Magazine 平山潤


いま、NEUT Magazineというオンラインメディアの編集長として生きている僕は、実は大学を卒業する直前までは編集者になろうなんて一度も思ったことはなく、小学生の頃から高校受験の前までパティシエになることが将来の夢だった。

そもそもフランス菓子だけでなく「食」というものに興味を持ち始めたのは、「お金がなくても、美味しいものは人を幸せにする(美味しさは値段じゃない)」ということをよく言っていた元フランス料理のシェフの親父の影響だ。

僕が生まれる10年くらい前。父は都内の有名ホテルで腕を振るっていたそうなのだが、「末っ子長男だから」というシンプルな理由で家業を継ぐことになり、若くしてシェフの道を断った。

束の間のシェフだった父は、今も住んでいる祖父の家のキッチンを改造し、“厨房”と表現して誰も否定できないほどの調理環境を整え、“我が家のシェフ”として生まれ変わった。

そんな父の理想のキッチンには、友達の家ではみたことのないペンギンマークの冷蔵庫や冷凍庫、製氷機、そして大きなガスオーブンに7口のガスコンロ。フレンチのフルコースを優に振る舞えるほどの設備だった。

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家族でサザエさんを見ながら、フレンチのコースを召し上がれ、なんてことは一度もなかったが、週末になるとお手製の様々な国の料理が食卓を彩った。ブイヤベースにパエリア、インドカレー、そして一番驚いたのはスープから作ったという豚骨ラーメン。

そんな親父が作ってくれた料理のなかで一番好きだったのが生姜焼きだ。

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