構造デザインの講義【トピック3:古代の石と木による構造】第1講:ローマ時代のアーチ・ドーム
東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です
トピック3:古代の石と木による構造
第1講:ローマ時代のアーチとドーム・パンテオン(ココ)
第2講:革新技術による大空間の実と美
~ハギア・ソフィア、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、タージ・マハールを事例として~
第3講:構造力学の実と美と装飾性
~ノートルダム寺院、ミラノ・ドゥオーモ大聖堂、ケルン大聖堂、サン・ピエトロ大聖堂を事例として~
第5講:日本の石工と組積の建造技術
第6講:日本の木造の建造技術~出雲大社~
第8講:日本の木造の建造技術~錦帯橋~
高い技術力と豊富な知識で築かれたローマ帝国
建造技術の宝庫、ローマ時代のアーチ
古代ローマでは、都市生活のために必要不可欠な水を得るため、遠く離れた山の湧水を導くため、水道橋が整備されました。
それは、飲料水、公共浴場、清掃などに利用されました。
ローマには、全部で10本の水道が整備され、その長さは数十キロにもおよびます。
紀元前15世紀に水道建設がスタートしました。
まっすぐ、適切な斜度を持つ水道橋の建設には、様々な科学技術、建設技術などが要求されます。
特に、高度な測量技術と建設技術は必須です。
これらの技術力の高さが、ローマ帝国の繁栄を支えたことは、容易に想像されます。
川を渡るため、アーチ橋は三層アーチとなり、その最高高さは49mにもなります。
405年まで使用され、803年のゲルマン人の侵略により破壊されました。
その後、1884年、フランスの橋梁技術者により発見されました。
古代のエジプトやメソポタミア、ギリシャ、南米などでは、持ち送りのアーチの遺跡がみられます。
古代ローマのアーチは、迫持ちアーチによって構成されています。
迫持ちアーチの建造には、高度な建設技術が必要でした。
持ち送りのアーチに比べて、石やレンガの強度を十分にいかせる迫持ちアーチは、力学的に合理性のある構造体です。
構造体あるいは防水のために、コンクリートが用いられました。
構造技術の革新と結晶・パンテオン
パンテオンは、古代ローマ時代、統治力、科学力、技術力など、そして、高い国力の象徴でした。
なお、パンテオンは、ギリシャ語の“すべての神々の神殿”(万神殿)を意味します。
パンテオンは118-128年に建造され、直径43.2mの大空間構造です。
この記録は、1700年後の鉄骨ドームの時代が来るまで、世界最大規模の空間構造でした。
ドーム内側は、5段、28列の格子面で装飾され、正確な半球面状になっています。
これは、宇宙を象徴する球形が表現されたものです。
ドーム頂部には、直径8.9mの天窓(オクルス)が設けられ、太陽の光と影がドーム内面に映り、季節や時間の変化を感じさせる演出となっています。
なお、天窓から降り注ぐ雨は、地上に達するまでに霧に変わり、幻想的な空間を演出します。
パンテオンの建造には、建築学の英知、すなわち、材料、力学、構造、そして、意匠、生産、採光計画などが、高いレベルで融合しています。
具体的には、いくつもの革新的な構造技術によって建造されています。
第1に、材料の発展と実用化、すなわち、ローマン・コンクリートと骨材の利用です。材料の均質化をはかり、適切な構造体として利用されました。
第2に、力学の理解と構造的工夫です。具体的には、ドームの脚部のスラスト(水平推力)に対し、壁厚9mの構造体を設けています。
第3に、材料によるドームの軽量化です。そのための2つの工夫があります。
1つ目は、使用材料を使い分けています。コンクリートに混ぜる骨材は、下部では砕いたレンガ、中間部では軽量の凝灰岩、そして頂部では軽石が使用されています。
2つ目は、ドームの壁厚は、脚部では耐スラストのため重厚で、上部に向かって薄くなり、頂部では約14cmの厚みとなっています。
第4に、ドームの格子状のリブは、剛性と強度を向上させます。
上部に向かって枠が小さくなることで、視覚的な効果、すなわち、遠近法により、天井をより高く見せる効果もあります。
ドームは、公共浴場の発達と普及に貢献しました。円形は温熱環境が保持されます。
なお、古代ローマ市内には、外径53mの大浴場の熱浴室が存在したとも言われています。
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