構造デザインの講義【トピック3:古代の石と木による構造】第2講:革新技術による大空間の実と美
~ハギア・ソフィア、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、タージ・マハールを事例として~
東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です
トピック3:古代の石と木による構造
第2講:革新技術による大空間の実と美(ココ)
~ハギア・ソフィア、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、タージ・マハールを事例として~
第3講:構造力学の実と美と装飾性
~ノートルダム寺院、ミラノ・ドゥオーモ大聖堂、ケルン大聖堂、サン・ピエトロ大聖堂を事例として~
第5講:日本の石工と組積の建造技術
第6講:日本の木造の建造技術~出雲大社~
第8講:日本の木造の建造技術~錦帯橋~
大空間建築は、世界に必要な建造物でした
聖なる英知の大空間、ハギア・ソフィア
概要
ハギア・ソフィアは、ビザンツ帝国の都・コンスタンティノーブルに建造されたビザンツ建築の最高傑作の一つ、キリスト教の大聖堂建築です。
ハギア・ソフィアは、ギリシャ語の”聖なる英知”の意味で、アヤ・ソフィアはそのトルコ語読みです。
建設
木造の小屋組みによるバジリア形式の大空間は、建造方法は困難なものでした。
そこで、優れた数学者、100人の現場監督、1万人の職人のチームにより、着工から5年10か月、537年に完成しました。
構造
直径31m、頂部の高さ56mのドームには、ローマン・コンクリートは使用されず、切石積みとレンガ造で構成されています。
ドーム空間の構造の要は、ペンデンティブと4本のアーチです。
ペンデンティブは、円形のドームに対し、方形な空間との接続における構造です。
ドームのスラスト(水平推力)への十分な抵抗を持った構造であり、そのまま内部空間を演出しています。
経緯
完成から20年、558年の地震により、中央ドームが崩落しました。
その後も、10世紀、14世紀に発生した地震により、ドームが崩落しました。
人類の美と技の財産、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂
概要
ルネサンス期の大聖堂の中でも、ひときわ美しさが際立つのが、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂です。
ミケランジェロの丘からフィレンツェの街並みを眺めると、その雄姿とともに、街のシンボルであることを実感します。
大聖堂は、「神の家」を意味するドゥオーモ、ラテン語のDomusを語源とします。
そうです、今日の、ドーム、です。
構造
伝統的な赤、白、緑の大理石による造りで、高さ100m、直径42mを超す象徴的なフォルムの大円蓋のドームを持つ大聖堂です。
1296年に建設がスタートし、何度も中断しながら、着工からおよそ600年後に完成しました。
建造
1367年、ドームの外形はほぼ決まっていましたが、具体的な工法や建設法がありませんでした。
巨大なドームゆえに、当時の技術では、巨大な足場の設置が困難だったのです。
そこで、古代ローマの建築技法から着想を得ました。
細身のリブと、軽やかな二重殻ドームによる構造です。足場を不要とする工法でもありました。
解決
尖塔ドームの構造技術は、以下の通りです。
二重殻ドームの外殻は、強度と耐久性を備え、内殻は壮麗で厳粛な内部空間を演出
地上からの足場は無く、レンガ用の型枠も不要で、簡易な工法
八角形の隅部に設けたリブが、頂部を固定して安定させる
二重殻は、軽量化につながり、その隙間は、作業空間や通路となる
レンガを杉綾積みとし、構造的な一体性を高める
内殻に、水平の平面アーチの圧縮リングを設ける
ドーム下部に木製の引張リングを設け、スラストとフープ力に抵抗
シンメトリーの完全体、タージ・マハール
古代より、左右対称な建造物が存在しています。
完全なるシンメトリーのものは、権力の象徴として表現されることがある。(東京都庁舎のシンメトリーは、そういった思いが込められています)
そこには、精緻で高度な設計・施工の技術が要求されます。
すなわち、畏怖の念ともいうべき感性が、美との関係をもたらすのかもしれません。
タージ・マハールのドームは、直径18m、中央ドームの高さは58m、四隅のミナレット(宗教建築物に付随して建てられる塔)は高さ42m。
この大規模な空間は、二重殻ドームとして、曲げ抵抗を高めています。
また、内部の空洞化により、空間・スペースの確保とともに、構造体の軽量化と応力負荷低減がはかられています。
二重殻ドームの構造は、近代・現代の大空間建築の構造にも、いかされています。
まさに、古の知恵と知識の結晶が、継承されています。
フォルムと、構造と、空間が高度に融合した建物です。
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