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構造デザインの講義【トピック3:古代の石と木による構造】第2講:革新技術による大空間の実と美

~ハギア・ソフィア、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、タージ・マハールを事例として~

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



大空間建築は、世界に必要な建造物でした

聖なる英知の大空間、ハギア・ソフィア

概要
ハギア・ソフィアは、ビザンツ帝国の都・コンスタンティノーブルに建造されたビザンツ建築の最高傑作の一つ、キリスト教の大聖堂建築です。
ハギア・ソフィアは、ギリシャ語の”聖なる英知”の意味で、アヤ・ソフィアはそのトルコ語読みです。

「真に建築上の大胆な企てという意味で、ハギア・ソフィアはかつて人類が作り出した最も野心的な建築物のひとつである。自信に満ち溢れていた時代のローマ人を含めて、このような空間をつくろうとした者はいなかった。これは奇跡なのである」

大空間構造の力学の原点が実践されたドームの存在

建設
木造の小屋組みによるバジリア形式の大空間は、建造方法は困難なものでした。
そこで、優れた数学者、100人の現場監督、1万人の職人のチームにより、着工から5年10か月、537年に完成しました。

構造
直径31m、頂部の高さ56mのドームには、ローマン・コンクリートは使用されず、切石積みとレンガ造で構成されています。
ドーム空間の構造の要は、ペンデンティブと4本のアーチです。
ペンデンティブは、円形のドームに対し、方形な空間との接続における構造です。
ドームのスラスト(水平推力)への十分な抵抗を持った構造であり、そのまま内部空間を演出しています。

経緯
完成から20年、558年の地震により、中央ドームが崩落しました。
その後も、10世紀、14世紀に発生した地震により、ドームが崩落しました。

力学の理解と、構造の工夫が内部空間を演出する
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

人類の美と技の財産、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂

概要
ルネサンス期の大聖堂の中でも、ひときわ美しさが際立つのが、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂です。
ミケランジェロの丘からフィレンツェの街並みを眺めると、その雄姿とともに、街のシンボルであることを実感します。
大聖堂は、「神の家」を意味するドゥオーモ、ラテン語のDomusを語源とします。
そうです、今日の、ドーム、です。

構造
伝統的な赤、白、緑の大理石による造りで、高さ100m、直径42mを超す象徴的なフォルムの大円蓋のドームを持つ大聖堂です。
1296年に建設がスタートし、何度も中断しながら、着工からおよそ600年後に完成しました。

建造
1367年、ドームの外形はほぼ決まっていましたが、具体的な工法や建設法がありませんでした。
巨大なドームゆえに、当時の技術では、巨大な足場の設置が困難だったのです。

そこで、古代ローマの建築技法から着想を得ました。
細身のリブと、軽やかな二重殻ドームによる構造です。足場を不要とする工法でもありました。

フィレンツェの街に映える圧倒的な存在感と求心力

解決
尖塔ドームの構造技術は、以下の通りです。

  1. 二重殻ドームの外殻は、強度と耐久性を備え、内殻は壮麗で厳粛な内部空間を演出

  2. 地上からの足場は無く、レンガ用の型枠も不要で、簡易な工法

  3. 八角形の隅部に設けたリブが、頂部を固定して安定させる

  4. 二重殻は、軽量化につながり、その隙間は、作業空間や通路となる

  5. レンガを杉綾積みとし、構造的な一体性を高める

  6. 内殻に、水平の平面アーチの圧縮リングを設ける

  7. ドーム下部に木製の引張リングを設け、スラストとフープ力に抵抗

世紀の美の傑作、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の美しさは、二重殻ドームの技術によって支えられている

シンメトリーの完全体、タージ・マハール

古代より、左右対称な建造物が存在しています。
完全なるシンメトリーのものは、権力の象徴として表現されることがある。(東京都庁舎のシンメトリーは、そういった思いが込められています)
そこには、精緻で高度な設計・施工の技術が要求されます。
すなわち、畏怖の念ともいうべき感性が、美との関係をもたらすのかもしれません。

タージ・マハールの美のフォルムには、二重殻ドームの隙間・空間・力学・施工の効果とメリットが込められている
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

タージ・マハールのドームは、直径18m、中央ドームの高さは58m、四隅のミナレット(宗教建築物に付随して建てられる塔)は高さ42m。
この大規模な空間は、二重殻ドームとして、曲げ抵抗を高めています。
また、内部の空洞化により、空間・スペースの確保とともに、構造体の軽量化と応力負荷低減がはかられています。

二重殻ドームの構造は、近代・現代の大空間建築の構造にも、いかされています。
まさに、古の知恵と知識の結晶が、継承されています。
フォルムと、構造と、空間が高度に融合した建物です。

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