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構造デザインの講義【トピック7:基本構造のデザインを科学する】第4講:ブレースの力学とフォルムの可能性
東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です
トピック7:基本構造のデザインを科学する
第1講:自由に空間をイメージする
第2講:骨組の力学とデザインを考える
第3講:アーチの力学とフォルムの可能性
第4講:ブレース・ラチスの力学とフォルムの可能性(ココ)
第5講:梁の力学とフォルムの可能性
デザイン・印象に残るブレースとトラスの構造とファサードへの利用
骨組構造において、ブレースやトラスの利用は、構造要素の断面効率の良さの点から、合理的なものです。
ブレース構造は、伝統木造建築などで見るように、壁の裏側に配置されることが多くあります。
それは、スパンの中で斜めに配置すると、動線の妨げになることから、耐力壁とすることがあるためです。
鉄骨ブレースや鉄骨トラスの建築構造物では、むしろこういった斜材を積極的にファサードデザインに利用する事例を見ることがあります。
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トラスとアーチによる立体空間、赤湯駅
山形県の山間部、山形新幹線が走る奥羽本線の赤湯駅は、鉄骨平屋建てで、アーチ屋根が象徴的な駅舎です。
周囲の自然景観や、観光資源をモチーフとした外観、フォルムとなっています。
アーチ形状の屋根は、建物の外側のV型柱で支持されており、建物内部は無柱空間になっています。
鉄骨骨組は曲線の格子梁で構成されています。
ライズの低いアーチ端部のスラストに対し、3本の地中梁(タイビーム)を設けて抵抗しています。
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周囲の景観の中にあって、ライズを抑え、丸みのあるフォルムは、この地になじみ、圧迫感を与え過ぎず、適度に控えめな建物として存在している
ブレースやトラスの構造安定を脅かす座屈
鉄鋼材料は、比重が大きいため、断面特性を確保しつつ、断面形状を工夫して、軽量化がはかられます。
それは、複数の板要素からなる断面形状をしています。
また、比剛度・比強度が高いため、部材断面はスリム化されることがあります。
さらに、鉄鋼部材の板厚が大きいと、穴あけや曲げ加工などが容易ではなくなります。
こういったことから、鉄骨のブレースやトラスなどの軸力材は、圧縮力を受けると、力を受けた方向と、異なる方向に変形することがあります。
これは、座屈と呼ばれる現象で、耐荷力が急激に減少し、構造体の安定を失うことになり、危険です。
そこで、ブレースやトラスの構造物の設計では、耐座屈性能をあげるための工夫が重要となります。
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有機的な大空間の屋根を支える細身の鉄骨ラチスシェル、新宿御苑大温室
都心において、美しい自然風景を見せる新宿御苑。
その中にひっそりと佇む温室があります。
特徴的なフォルムは、適度な存在感を示し、新宿御苑のランドスケープとして重要な建築物となっています。
熱帯地域から高山地域にいたるまでの自然環境を体感・観賞するための大空間です。
棟を分断することなく、空間と動線は連続的につながっています。
環境負荷軽減を目的として、外装面積が最小されるように、外観・フォルムが決定されています。
このような有機的でシークエンスな大空間の立体形状は、鉄骨による単層ラチスシェルによって大屋根の構造が支えられています。
ドームの下部構造のディテールにも細部にわかって工夫が見られます。
また、ガラスはDPG(Dot Point Glazing)により点支持され、ガラスの収まりや枠が目立たないように、デザインが工夫されています。
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三角形要素=トラスの力学とデザイン
建築学を学びはじめると、構造力学の中でトラスの力学の解法を学びます。
学問の基本中の基本ですが、高い耐力と剛性の構造物を作ることができ、実建物にも利用されています。
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トラスは、三角形の要素の組み合わせ方により、平面や曲面として構造体を構成することができます。
細い部材を線で使うため、見た目も重さも軽量化ができます。
さらに、プレハブ化することもでき、施工や加工の精度も高められます。
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