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構造デザインの講義【トピック9:曲面構造のデザインを科学する】第5講:膜構造の力学とフォルムの可能性

膜と骨組と力学の関係を理解して、有機的な空間を作る

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



骨組と膜の関係

骨組膜構造は、膜材に張力を導入するために設けられます。
膜のフォルムに合わせて、アーチやリング、曲線や多角形、など、その形式や形態は様々です。
ワイヤーで張力を与える場合、ワイヤーの反力をとれるように骨組を設けることもあります。

葛西臨海公園船着場は、ヴォールト形状に膜が張られている
谷口吉生が設計した葛西臨海公園内の建物の1つ
鉄骨アーチによって、そのフォルムが支えられている
川に向かって、無柱の空間が張り出し、水辺との一体感を演出する
膜屋根とすることで、周囲の緑や空、水と連続したデザインを感じることができる
葛西臨海公園の休憩所
ヴォールトの膜屋根にアーチがかけられ、ストラットとテンション材による張弦梁構造が見られる
空港ターミナルのデザインと調和する仙台空港駅の膜屋根
膜材の端部に、張力を導入するためのワイヤーが張り巡らされ、立体的に鉄骨が配置された、スパイラルフレームによって支えられている
アーチとカテナリーに配置された鉄骨部材により、鞍型の膜屋根が表現されている

六本木ヒルズのコンプレックスに調和した屋外ステージを演出するオーバルドーム

六本木ヒルズのイベント広場の六本木ヒルズ・アリーナ、通称:オーバル・ドーム(オーバルは楕円の意味)は、キャンチ・トラスで支持された大屋根を、6本の柱で支持する構造システムです。
楕円形状の大屋根は、長径54m、短径41mあり、屋根外周はリング(オーバル・リング)で構成されています。
小梁やテンション材によって大屋根の構造システムが構成されています。

飛躍感のある大屋根の大胆な構造システム
天秤構造を基盤として、テンション材が利用されている

キャンチ・トラスは、柱頭の台座にピン接合され、トラスの一端はフリー、他端にはバックステイのケーブルが設けられています。
屋根重量による鉛直下向きの力は、バックステイの張力によってバランスをとり、いわゆる天秤構造として安定させています。
バックステイの反対側にもフロント・ケーブルが設けられており、柱から斜めに配置されています。
これにより、屋根下の空間を確保するとともに、風荷重による上下動に対し、フロント・ケーブルとバックステイが抵抗する機構となります。

屋根荷重(鉛直下向きの荷重)に対する力学機構
風の吹上げ(鉛直上向き)に対する力学機構

バックステイとフロント・ケーブルは、張力を喪失しないよう、初期張力が導入されています。
なお、管理風速を超えた場合、ケーブルの張力喪失を回避するため、屋根は開閉膜システムとなっています。
キャンチ・トラスと柱頭をピン接合とすることで、応力分布が明確になり、各部位の応力負担も過度とならず、均衡を図りやすくなります。
これにより、スレンダーな骨組を実現しています。

オーバル・ドームは、北に森タワー、東にけやき坂コンプレックス、西にテレビ朝日、南には道路が面し、周囲を囲まれた敷地レイアウトとなっています。
そのため、施工に関して、キャンチ・トラスを地組し、クレーンによる吊り上げとピン接合による簡易な接合法により、工期短縮や施工性の向上が可能となりました。
また、バックステイの張力の制御により、キャンチ・トラスの傾斜やレベルの管理が容易となります。
以上により、構造システムとして応力の流れが把握しやすくなり、設計の精度と信頼性が確保できるとともに、浮遊感のある構造表現を可能とします。


折り紙・行燈・障子の、和のイメージ、高輪ゲートウェイ駅

高輪ゲートウェイ駅は、東京・山手線の新駅として登場しました。
駅を含めたこの地域は、将来的には、東京の南東エリアの副都心として期待され、再開発のシンボルでもあります。

膜屋根により、明るく軽快な駅舎は、地域に開かれた広場となります。
折り紙をモチーフとした明るい屋根は、緩やかに都市と接続されます。
なお、テフロン膜が採用され、光触媒により汚れにくく、耐久性にも配慮されています。
開口や構造の隙間に、ガラスが多く使われており、光や視線の抜けの工夫がみられます。
日中は太陽を取り込み、夜は行灯のように光を灯します。

特徴的な折り紙形状の鉄骨骨組は、角形鋼管やH形鋼の梁が用いられています。
H形梁のウェブには、杉の集成材がボルト接合されています。
また、鉄骨柱は、杉材で覆われており、鉄骨と木のハイブリットの表現がみられます。
白く半透明な膜は和紙に見え、骨組に仕込まれた木材により、全体として障子が表現され、「和」を感じることができます。

鉄骨骨組と集成材の接合により、和の空間が表現されている

骨組のディテールにも、細やかな配慮がみられます。
耐風梁は、マリオンのブラケットに合わせて、切り欠きを設けた上で、ピン接合されています。
骨組の柱頭は、アングルを挟み込んで接合しています。

細部に至るまでディテールに配慮がなされている

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