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構造デザインの講義【トピック9:平面構造のデザインを科学する】第6講:平板・折板の力学とフォルムの可能性

独創的な形態とリズムと印象を与える板の構造とデザイン

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



巨大な板ー平板構造の存在感と表現力

建物の壁や床、天井は、RCや合板などの平面で構成されることがあります。
これを構造体とする平板構造は、力を分散し、高い力学的特性を示すため、比較的薄く、広い版状構造として利用することができます。
こういったスラブなどとは違った平板の使われ方をすることがあります。

スリットの入った巨大な箱型の構造によるホキ美術館
平板を組み合わせたフォルムは、テーパーを付けることで、鋭利なエッジが際立つ印象を与える
スリットが設けられ、内外のバランスの良い関係性により、唯一無二の建築空間と、独創的な世界観を表現しています

力を受ける平板構造は、力を分散して効率的に抵抗することができます。
力を受ける平板の力学と変形は、板の方程式によって解かれます。
板の方程式は、多次元の、4階の微分方程式が、連立する形となります。
特殊なケースを除き、陽な形で理論解を定式化することができません。
そのため、古くより、級数や近似解などで表現したり、数値演算法によって解かれてきました。

21_21 design sightは、傾斜した巨大な平板を使って、折り紙のように織り込まれ、シンプルなフォルムの美術館・ギャラリーである
マッシブな平面を、際限なく表現した世界観は、平板構造の重厚感によって表現されている

田園風景に溶け込むスイデンテラス

山形県庄内平野の田園風景の中で、洗練されたデザインでありながら、高度で緻密な構造デザインによるスイデンテラスは、周囲の原風景に見事に調和しています。
アプローチに設けられた矢来(やらい)が、この建物の構造コンセプトをシンボリックに表現しています。

エントランスのアプローチに設けられた矢来(やらい)は、この建物の形態・フォルムをシンボリックに表現している

1階のRCラーメン構造を基壇とし、2階は鉄骨骨組と木材のハイブリッド構造により、温かみと優しい木の材料表現と、独創的な空間構造がみられます。
木とテンション材の張弦梁構造により、梁間構面は無柱となり、折板構造と斜め格子の木質構造は、内部空間に躍動感とリズムを与えています。
鉛直荷重や水平荷重をコンクリートコアにも負担させることで、このような空間を実現させています。

周囲の景観と調和した外観とするため、山形アーチの木造屋根はライズを低く抑えています。
ライズが低いと、相対的にスラストが大きくなりますが、張弦梁に用いられているテンション材が抵抗します。
折板構造の表現は、木質面材の存在感と細身のスチールの対比によって、木造が象徴的な屋根と天井を表現しています。
骨組は、鉄骨架構に木材を組み合わせたハイブリッド構造です。
桁行構面は、格子状の集成材による壁柱の構造体と、鉄骨骨組により構造が構成されています。
ブリッジには鉄骨によるフィーレンデール構造を見ることができます。

なお、設計者の代名詞でもある紙管パイプが、建物の仕上げや家具などのデザインに用いられ、建物の構造と調和しています。


折板によるリズムとアクセントを感じる、横浜港大さん橋国際客船ターミナル

横浜港大さん橋ふ頭と、横浜港大さん橋国際旅客ターミナルは、横浜港のシンボルとして多くの人々が利用し、主要観光地でもあります。

大さん橋の屋根は、薄い板を組み合わせた折板(せつばん)構造が採用されています。
山と谷が織りなす空間は、日本の折り紙を連想させます。
純粋の折板構造ではなく、鉄骨トラスによる骨組が用いられています。
しかし、ターミナルの空間やフォルムの表現は、コンセプト通りの姿をみせ、じゅうぶんに印象的です。

折板構造は、平板の力学と、稜線での力学を組み合わせて解かれる

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