作家、中山可穂の書く女性たちに惹かれる
中山可穂先生の代表作には『白い薔薇の淵まで』という女性同士の情熱的な恋愛を書いた話がある。
同性愛以外だと、宝塚をテーマにした作品があるのだが、残念ながら、作家としてマイナーな扱いをされている中山先生の小説はあまり店頭に置いてあることはなく、ほとんどネットで買った方がいいだろう。
そこそこ中山先生の作品は読んできたが、「作中に同性愛者が出てくる」という点が特徴かもしれない。あと、作中の登場人物たちがレズビアンだった時どっちかが既婚者である点もこの作者あるあるだ。もちろん全部読んできたわけではないので同性愛者が出てこない作品もあるかも分からない。
あんまりにも、レズビアンが主軸の恋愛が多いから、レズビアン作家と呼ばれることもあるらしいが、作者本人はこのように言われる事を嫌っている。
ところで、私が中山可穂先生を知ったのは「女性が書いたレズビアン小説ないかなぁ」と知恵袋を開いたのがきっかけなので、なんだか申し訳ない気持ちだ。
近年、LGBTQという言葉が世間に知れ渡るようになり、同性愛をテーマとした小説は昔よりも表に出るようになった。私としては、これよりずっと前から「女性が書くレズビアン」「男性が書くゲイ」小説を探していたので、見つけた時はちょっと嬉しかった。（だって、どれだけ探しても見つからないんだもん・・・見つけ方が下手なのか？）
ちなみに、男性が書いたゲイ小説は三島由紀夫の『仮面の告白』ぐらいしか分からない。
私個人は、同性愛者ではないのだが、いつでもノンフィクションの世界だったり、自分とは無縁の世界を知りたいと思うので、できれば当事者の書いた同性愛小説が読みたいものだ。
そんなわけで中山先生の作品を読んだ次第であるが（先生が同性愛者かは不明）これが非常に素晴らしかった。良い作家を見つけると、その人の作品ばかり貪ってしまいたくなる。
というのも、この方の書く文章が好きなのだ。繊細かつ硬質な文章が美しい。なんと言ったら良いか……言葉のチョイスが好きなのだ。
中山先生の作品を例えるなら「青い炎」といった感じ。
世界の片隅で生きている確かな愛って感じ？んー、上手く言えない、悔しい。
そんな先生の作品には男気溢れる、強い女性が沢山出てくる。それゆえ、ヒステリックで攻撃的な一面も見られたりするのが、怖かったりもする。
あとすんごい不倫してくる。
『白い薔薇の淵まで』という作品には恋人同士が喧嘩をする際、引っかいたり、平手打ちしたり、首を絞めたりしてお互いがボロボロになると、一緒に傷の手当てをするといった描写がある。
女性同士だからいいのか？いや、結構暴力的だぞ？と思ってドン引いた。
ただ、中山先生の書く女性同士の喧嘩はこのような暴力的な内容が多い。大体どっちかが嫉妬に狂ってヒステリーを起こしている感じ。ゆえに、情熱的なのだろう。
因みに、この物語の中で恋人の浮気を疑うシーンがある。（私の鼻は誤魔化せないよ！このゲランの香りは貴方からした事がないわ！）どこの女と一緒だったのよ！どこに居たのよ！と恋人を問い詰めるのだが、香りのブランド名を記載するのが女性作家らしくて好きだ。
ここまで書いたところで、なんで先生の書く女性たちが好きなのかなぁと考えてみたら、自分に無いものを全部持っているからという事に気づいた。
破天荒な生き方、暴力的な性格、溢れる自信、それは私には絶対にできない生き方なのだ。（不倫を肯定しているわけじゃあないよ！）
さて、なんとも下手くそなプレゼンだったので「で？」という声が聞こえてきそうだ。
私自身もこの記事のまとめ方が分からず困っている。（えぇ…
とりあえず、お気に入り小説とその中に出てくる一節を紹介して終わりにしようと思う。よく分からなかった方は読んでみてほしい。損はないはず。
『白い薔薇の淵まで』は過激な性描写がほとんどなため、個人的には『弱法師』という小説をお勧めする。短編集で、『弱法師』、『卒塔婆小町』、『浮舟』の三篇がある。全部おすすめ。
『白い薔薇の淵まで』
この十年間、わたしはいつも、雨の匂いのする本屋で蝉の合唱を聴きつづけていたような気がする。薔薇の香りはつねに耳の後ろにあった。
私は脳髄の裏側に白い薔薇を植えたことがある。花を咲かせたのは数えるほどしかない。RUIが塁であったとき、花びらはこの頭の中で幾度もこぼれた。命を刺す棘とともに。
『弱法師』より卒塔婆小町
「あなたは骨の髄まで編集者だね。おそろしい人だ。そんな女に十年間も恋焦がれてきた僕の骨は、紙とインクの匂いがするだろう。あなたの好きな原稿の匂いがするだろう。最後の一本は僕の骨で満足してくれ。僕が死んだら僕の骨を抱きしめてくれ」
『マラケシュ心中』
憎い。憎い。泉が憎い。赤ん坊が憎い。先生が憎い。この世のありとあらゆる夫婦が憎い。ありとあらゆる家族が憎い。セックスさえすれば簡単に子供をつくれる奴らが憎い。そしてわたしは誰よりも神が憎い。男女の間でしか生殖を可能にしなかった神が憎い。このように不公平で不完全な世界をつくって平然としている神が心底から憎い。脳の血管が切れるほど、はらわたを掻き出してぶつけたいほど、憎くて憎くてたまらない。
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