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『乱反射』読書記録〜迫り来る罪悪感〜
貫井徳郎先生の『乱反射』
ちょっと嫌な気持ちになる本ではありますが(登場人物ほとんど嫌な人)読んで良かったと思います。イヤミスに入るのかな?
この先生、他の作品で『慟哭』を読んだことがあるのですが人物描写を書くのが上手いです。
亭主関白な主人はどうして家族を大事にしないのか、婦人グループで1番声の大きいあの人はどうして人を見下した発言をするのか、大人しいあの青年が好きな子を勝手に理想化するのは何故かなど。
その行動心理が読んでいてスッと入って来ます。彼らのダークな側面は私たちの日常の中にゴロゴロあって、人間生きていれば絶対に一回は至る事がある気持ちです。
逆に誰にでもある感情だからこそ読んでいて嫌な気持ちになったんだろうと思います。
さて、この『乱反射』は誰もがやった事のあるちょっとした不正が一つの事故を起こし、幼い子供が亡くなってしまったという話です。
この「ちょっとした不正」は犬の糞を片付けなかったとか、やるべき点検を行わなかったとか、風邪なのに夜間救急を使うとか、面倒だからといって仕事の手を抜くとか、そう言う誰もがやっちゃう可能性のある事。
物語後半で、子供の父親が事故の背景を追っていくのですが、これがまぁ罪にならない事ばかりで、責められた人達は皆「自分のせいじゃない」と言って逆切れするんです。そんな反応がほとんどだから父親の心もすり減っていく。
「裁きたいのに裁けない罪」という、なんとも胸糞悪くなるテーマを扱っています。
読了後、私の中に残ったのは確かな罪悪感でした。
この本、不思議なもので読者にも牙をむいてくるんです。
日常の中で「どうせ誰も見ていないから」「このくらいズルしても大丈夫」「みんなやっている」とか、そういった誰もが感じたことのあるやましい感情を、子供を殺された父親が糾弾していくんですよね。
貴方たちの小さな不正が息子を殺したんだと。読んでいる自分には関係が無いのに、読み終わった後は「私も意図なく、ちょっとした不正で誰かを殺してしまう事があるの?」と思って、ちょっと怖くなりました。
そんな、読者に罪悪感を芽生えさせる不思議な一冊『乱反射』ですが、ミステリー小説と言うにはちょっとテイストが変わっていまして、謎解きのような感覚で読むと物足りなさを感じるかもしれません。
どちらかと言うとヒューマンストーリーの類だと思っています。
謎解きを楽しめる純ミステリーを読むとしたら同じ作者の『慟哭』がお勧めです。
つたないレビューではありますが、呼んで下さりありがとうございました。