2019年 F1 フランスGP レビュー

大いなる喪失感と共にサーカス一行は再び大西洋を渡り、フランス・ポールリカールサーキットに到着した。
跳ね馬はこのタイミングでもカナダで盗まれた勝利を取り戻すべく、「再審請求」を行ったが、あえなく門前払い。
過去の事例をみればわかるが、このタイミングでなにかが動くことなどまずあり得ない。
そんなことは百も承知であろうフェラーリ陣営だが、やはり一言モノを申さないと気持ちの整理がつかないのだろう。
それほどまでにあの事件の衝撃は大きかったということか。

そろそろ来シーズンのマシン開発の方向性を決めなくてはならない時期がやってきている。
だが今年のマシンが果たしてどの程度のものなのかすら、現時点では見えなくなっている混沌とした有様。
これでは来年の計画なぞたてられるはずもない。
それはフェラーリだけの問題では無く、メルセデス以外の全てのチームが同じであろう。
(現在下位に甘んじているチームがベスト・オブ・ザ・レストなどどいう言葉に安住していなければという条件付きだが)
それほどまでに今年のメルセデスは異次元の強さを見せており、それはここポールリカールでも同じであった。

初日から明暗はくっきりと表れた。
フェラーリが大苦戦する中、メルセデスはすいすいとタイムを出していく。
まるで彼らだけ先週から占有テストを行っていたのでは無いかというようなペース。エグイまでのスピード差がある。
予選もあっさりとハミルトンとボッタスでフロントローを制圧。
これで新記録となる63回目のフロントロー独占。
グランプリに長く参戦しているフェラーリやウィリアムズを抑えての記録達成。
ここ数年間のメルセデス帝国の趨勢が感じられる出来事ではないか。

たが、どんな帝国もやがて別の帝国にとって変わられる。
それはルクレールやヴェースタッペンの走りを見たーからではない。

フランスGPの隠れた主役はマクラーレンだった。
オレンジ色の閃光が、停滞するグランプリの未来を鮮やかに照らした。
ノリスが予選5位。ヴェースタッペンとの差は僅かに0.009秒。トップ3を狙えることを高らかに宣言した。
決勝ペースこそヴェースタッペンには及ばず、ずるずると後退してしまったが6位と9位で終わってしまったものの、成長ベクトルに一点の曇りもないように見受けられた。
メルセデスが支配するグランプリを終わらせるのは、案外彼らなのではないかと予感させる鮮烈な走りだった。

たしかにマクラーレンの歩みは遅いかもしれない。
ホンダからの離婚後1年半たってこのポジションはかつての銀河帝国時代(そう、彼らも帝国だったのだ)を知っている層には物足りなさを覚えるかもしれない。
かつての名門は、いまやルノーのカスタマーPUユーザーだ、大口のド派手なスポンサーもついていない。
ドライバーラインナップもレッドブルの本流からはずされたサインツと、才能の点では疑いの余地もないがどこか扱いが地味なノリスだ。
レッドブル系と手を組み、大躍進と遂げたホンダと比較してしまうと、その差が際立ってしまう。
だが、このご時世にマクラーレンがじわりじわりとそのポジションを回復してくるところにレーシングの面白味と尊さがあるのだと思う。
シーズン前のテストでなんとなくグランプリの行方がわかってしまい、シーズン中にテストを重ねて一大反抗といった出来事もなくなった最近のグランプリ。
あるのは新しいレギュレーションを吟味咀嚼して新たなる解釈を施し、ギリギリの線をついてくるニューマシン。これがグランプリを支配していた。
たまたまメルセデスがグランプリを席捲しているが、それはフェラーリでも良いしレッドブルでも良

シーズン前にそんなことをできたチームがそのグランプリを統治する。
それもF1らしいと言っちゃそれまでだが、こうやってシーズン中にじわりじわりとポジションをあげて、いつの間にか存在感を発揮しているというチームは貴重になってしまった。

あらゆることがシステマチックでスピーディでダイナミックになってしまったF1グランプリにおいて、このマクラーレンの進化の方向性とスピードはグランプリフリークスにとってどこか懐かしい。
今年中にマクラーレンが勝つことはまずないだろう。
フェラーリにもレッドブルにも敵わないかもしれない。
だが、それがどうしたというのだ。
ちゃんと開発の方向性を定めて、そこに向かって粘り強くハードワークを行っていく。
ドライバーは与えられたクルマの性能を十二分に引き出すように懸命にドライブする。
決して派手ではないが、その活躍はF1ファンのハードビートに寄り添っている。
そういやそんな鼓動を昨年はアルファロメオのルクレールに感じていた。
F1ファンのハートビートにシンクしたマクラーレンの未来は、おそらく明るい。

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