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フラッシュバック#1【短編小説】

何日か前に福山の携帯に何度か着信があった。
タイミングが合わず連絡が取れたのは3日後。


佐藤 隆介「福山さん、ごめんね。忙しい時間に何度も連絡して。」   
福山 凛子「いえいえ、仕事中だとなかなか電話出れなくて。ごめんね。」
佐藤「元気?」

佐藤は福山が初めて就職した会社の同期生。
当時、同期は仲が良く毎日のように男女関係なく仕事が終わると集っていた。
それはもう、30年以上の前の事。
今では人数は少なくなったが年に数回顔をあわせ、その度に現在の状況を報告しながら昔の話にも花が咲く。
佐藤は現在、居酒屋を経営して忙しい毎日を過ごしていると以前話していた。自分から連絡をするタイプではなく、口数が少なくいつも友人の話を頷きながら聞いている。

福山「元気だよ。どうしたの?なんかあった?」            
佐藤「怒らないで聞いてくれる?」                  
福山は内心、相談事を持ちかけられても応えられるか不安になる。

福山「言ってもらわないと分からない。」
佐藤「絶対に怒らないで聞いて欲しい。」
福山「私が怒る話なの?」
佐藤「分からないけど…」
福山「怒らないから話して!」
少し苛つきながらもどんな話でも冷静に聞こうと覚悟をした。

佐藤「一緒に仕事してた時にさ。福山さんの事好きな人いたじゃん?」              
福山「?誰?」

佐藤「誰だか分からない?名前あげてみてよ。」

福山「なんでよ。知らんよ。」
佐藤「え?知らない?」
福山「何?何の話?」
佐藤「福山さんさ、近藤さん覚えてる?」
福山「!!近藤さんがどうしたの?」                 
冷静を保つのに必死な福山。

佐藤「最近さ、僕の店にたまたま来てさ。
あれ?佐藤?久しぶりだね!から始まって今はちょくちょく来てくれてさ。」
福山「そうなんだ…。…」
言葉はそれ以上出ない。
怒るどころか。心が言葉では言い表せない程に響めき騒がしい。 
佐藤から近藤の名前が出るなんて予想もつかなかったし何故今更近藤の名前が出るのかさえも理解が出来なかった。

何故なら
30年前・・・
近藤は福山にとって青春の表紙のような人だった。
初めて近藤と出会った日は、味わった事のない衝撃だった。近藤を見た瞬間に鼓動がなり赤面した。
いわゆる一目惚れ。
その日からは職場で彼の姿を探すようになる。
そんな日々を過ごしているうちに、近藤も含めて数名で仕事帰りに食事に行く機会があった。
急速に彼との距離も近くなり
二人で会う事に発展する。
福山はそれはそれは嬉しくて薔薇色とはこういう事かと思った。
当時20歳の福山。近藤は大学4年生でアルバイトで勤務していた。
田舎から東京に就職で出てきた福山にとって近藤は、とても大人に見えた。
会話も面白くワクワクした。
何回か、二人で会ううちに
とうとう友人以上になる夜が来た。
鼓動が聞こえるくらいドキドキしていた。
しかし、そんな初めての出来事のあとに
近藤は
 「生理なら生理って言ってよ!」
と言い洗濯を始めた。
福山は心が折れたのを覚えている。
勿論生理ではなく初めての経験だったのだ。              大好きな近藤から
そんな言葉が出て
ショックの一言で片付けられないくらいの心の痛みだった。
しかし、そんな日からも
福山は近藤の事を嫌いになるどころか
好きで好きで仕方がなかった。
連絡はいつ来るのかわからないのに会うのを楽しみにしていた。
そして、彼からは好きだとか
付き合おう。とかの言葉は一切無く
彼は大学卒業と共にアルバイトを辞め会社を去って行った。辞めた後は、数えるほどだが近藤から連絡があり会っていた。
その1年後、福山も転職し会社を辞めた。それからは連絡がつかなくなる。
昭和60年代、携帯も無く
連絡を取る手段は家の電話。
福山は近藤の家の電話番号は知っていたが、かけることは少なかった。
何故なら彼の母が出る事が多く気が引けたからだ。
そんな状況を今の若い人達には理解不能だろう。
福山は新しい職場で働き始めて3年が経ち
プライベートにも変化があった。
彼氏も出来き
交際は順調に進み結婚に向けて
式の段取りに大忙しだった。
充実したプライベート。
仕事も楽しく
幸せだった。
ある日の仕事中に事務の女の子が
  「福山さん、電話ですよ。
  近藤さんという方です。」
その一言で福山の時が止まる。
その日まで近藤の存在さえ忘れていた。

近藤は以前勤めていた会社の人から福山の勤めている会社の電話番号を聞き連絡をしてきた。今ならありえない話だ。
近藤「福山、元気?久しぶりだね。会いたいんだ。会ってくれる?」

福山「え?3年以上も経った今?なんで?」
会社の電話だったので短い会話を小さい声で済ませ電話を切った。
翌週末会う約束をする。
福山は、見返してやる!との思いで懸命にオシャレをし、その日を迎えた。
待ち合わせした時間に遅れてやってきた近藤。
福山…相変わらずだ。と呟き、
同時にスーツを着た近藤を目にした瞬間
初めて会った日を思い出す。
近藤「福山、お待たせ!実は兄がレストランを経営してるんだ。行ってみよう!」
近藤は福山の手を取り歩き出す。
不意をついた行動に福山は動揺する。
福山は近藤の身内に会うのはもちろん初めてであり、何故このタイミング?と思った。
最後に会ってから3年が経過しているのに。

レストランに着くと
近藤「兄ちゃん、福山連れてきたよ。」
と紹介する。

福山「はじめまして。」

近藤兄「はじめまして。慎介の兄です。ゆっくり楽しんで行ってね。」

と、優しい口調で挨拶をされ福山は嬉しく感じた。
二人は席に着き
最初に語り始めたのは近藤だった。
近藤「福山、久しぶりだね。会えて嬉しいよ。」
福山…無言
近藤「彼氏いるの?」
福山は
直球の質問に今だ!と感じ言い放つ
福山「来月結婚するの。」
近藤「そうか…。幸せか?」
福山「勿論よ」

料理を運ぶ定員に近藤は
「俺の彼女!綺麗だろ!」
と悪びれず話す。
どういうつもりかと福山は訪ねると
近藤は
「俺、福山の結婚式にあの有名な映画のように止めに行くかもよ。」
福山は近藤の悪い冗談に
「貴方にそんな勇気ないでしょ。」と、答えた。
二人は朝まで飲み明かし
福山は最後まで近藤の気持ちを聞く事はなかった。                    近藤「じゃあな」                           
最後に
近藤「福山、幸せになれよ!」
と…。二人は別れて歩き出す。                     見返すために近藤と会った福山だったが、心が奪われたままだと気付かされた瞬間でもあった。

結婚式を迎えバージンロードを歩く福山の脳裏に、あの扉を叩いてやってくる近藤の姿が浮かび頭を横にふった。そしてこれからは、目の前の人を大切し生きることを誓った。

あれから30年月日が流れ
携帯も普及しSNSも発展する。
時に福山は近藤をSNSで検索する事があった。今どんなふうに生きているのか姿を見たいという気持ちではあったが、会いたいとは思っていなかった。
しかしSNSでは見つからず、まーそんな事、どうでも良いとも感じてもいた。
何故なら
家族にも恵まれ
福山は幸せな時を過ごしていた。
大切な人を大切に生きないといけない。
自分の為にも大切な事を忘れてはいけないといつも思い過ごしている福山。

時間が流れ
時間が流れ
時間が流れ

佐藤からの連絡。
佐藤「福山さん、それでね。
   近藤さん福山さんと連絡取りたいって。
   俺、勝手に教えられないから
   確認したいんだ。
   どうする?」


                つづく












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