Berryz工房とBadfinger
自分がBerryz工房に惹かれるのは、Berryz工房の歴史が一種の貴種流離譚のように読み取れるということが一つの理由としてある。そして、そういう意味でBerryz工房は、自分の好きなバンドの一つであるBadfingerと重なる部分がある。
といっても、よっぽどの洋楽好きでなければ、Badfingerというバンドの名前すら聞いたことがないという人が大半であろうと思われる。あるいは、極度のビートルズ・マニアであれば、このバンドのことをもしかしたら知っているかもしれない。
しかし、Badfingerの曲については、知らず知らずのうちに触れているという人が少なからずいるように思われる。というのも、1972年に全英・全米で1位を獲得し、世界中で大ヒットしたニルソンの「ウィザウト・ユー」(Without You)は、Badfingerのオリジナルをカバーしたものだからである。この曲は後にマライア・キャリーによってもカバーされた。1994年にリリースされたマライア・キャリーのカバーバージョンは全英で1位、全米でも3位を獲得し、アメリカ国外では彼女の最大のヒット作となり、彼女の代表曲の一つにもなった。この「ウィズアウト・ユー」(ニルソンのバージョンのみ日本語表記が「ウィザウト・ユー」とされたらしい)は、Wikipediaによれば180以上のアーティストによってカバーされているらしい。もちろん、多くの日本人アーティストによってもカバーされており、その他にもいわゆるスタンダード・ナンバーとして様々な場所で流されるので、曲名は知らなくともメロディーは聞いたことがあるという人がかなりいると想像される。
しかし、これほど知名度のある曲を産み出したBadfingerであるが、バンド自体がそれで有名になることはなかった。そもそも「Without You」は元々アルバム曲であって、Badfingerはシングルとしてリリースしていないのである。むしろ、Badfingerが洋楽ファンに知られているのは、ロック史上においても稀に見る悲劇のバンドとしてであろうと思われる。
Badfingerのバンドとしてのスタートは華々しいものだった。ビートルズが自身のレコード会社として設立したアップル・レコードからビートルズの弟分として売り出された。もともとBadfingerは別の名前で同じくアップル・レコードからデビューしていたのだが、メンバーチェンジもあり、改名して再デビューしたのだった。この改名にはビートルズのメンバーも関わっており、最終的にビートルズの曲である「With a Little Help from My Friends」の仮タイトルからバンド名がつけられた。そして1969年にリリースされたデビュー曲もポール・マッカートニーが書き下ろしたものであった(当初は「Abbey Road」に収録される予定だったものがBadfingerに譲られたらしい)。この曲はリンゴ・スター出演の映画のテーマ曲としても使われ、その後Badfingerはジョージ・ハリスンやジョン・レノンのアルバムにも参加している。
アップル・レコード在籍時はかなりの成功を収めていたBadfingerだったが、バンドのマネージャーとレコード会社の折り合いが悪く、ワーナー・ブラザーズに引き抜かれる形で1973年にレコード会社の移籍をする。しかし、この移籍はアップル・レコードとの遺恨を残すものとなり、移籍後のバンドの売上げも芳しいものとはならなかった。そして、1975年にはバンドの中心メンバーであったピート・ハム(Pete Ham)が身重の妻を残して自殺をする。遺書には移籍を主導したマネージャーを糾弾する言葉があった。
バンドはピートの自殺後、活動を停止するが、1978年に再結成をして、別のレコード会社で活動を再開する。しかし、売上げは振るわず、さらにメンバー間で「Without You」をはじめとするアップル・レコード時代の楽曲の版権を巡って訴訟合戦が起きる。そうして、もう1人のバンドの中心メンバーであったトム・エヴァンズ(Tom Evans)が裁判の心労から自殺をする。こうして「Without You」を共作したピート・ハムとトム・エヴァンズの2人ともが自殺をしたことにより、Badfingerのバンドとしての歴史は閉じられた。
自分がBadfingerのことを知ったのは、ラジオでたまたま流れていた曲が気になって、誰の曲であるかを調べたのがきっかけである。その曲はファーストアルバムに収められているCarry on Till Tomorrowという曲であるが、これもピート・ハムとトム・エヴァンズの共作によるものであり、今でも最も好きな曲の一つである。
Carry On Till Tomorrow (Remastered 2010) - YouTube
Berryz工房とBadfingerとの共通点として目につくのは、有名なグループの妹(弟)分として売り出されたことであるが、その他にもピート・ハムとトム・エヴァンズといった優れたソングライターを擁していたにも関わらず不運にも歴史に埋もれてしまったBadfingerのバンドの歴史が、質の高い楽曲と優れたメンバーがいながら、それにふさわしい知名度を得ることができなかったBerryz工房を髣髴させるものがあるように思う。また、Badfingerのことを知らなくても、その楽曲は聞いたことがあるという人がいるように、Berryz工房も、グループのことは知らなくても、イナズマイレブンのアニメ楽曲などの曲には触れたことがあるという人がいるように思われる。
しかし、音楽というものは、それ自体に生命が宿っているものである。事実、2013年にアメリカの人気ドラマに1972年に発表されたBadfingerのシングル曲「Baby Blue」が使われ、その曲の配信の売上げなどが伸びたそうだ。Berryz工房にも、もしかしたらそういうリバイバルみたいなことが起こるかもしれない。
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