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船に揺られて西の果て ~フェリーよなくに~

「最果て」には、人をひきつける何かがあるらしい。

高校生のとき北海道にハマった私は、日本におけるそのうちの2つ ――― 宗谷岬と納沙布岬を制覇した。なんなら飽き足らず宗谷岬は半年間に2度行った。
しかし最西端・与那国島と一般人の出向くことができる最南端・波照間島は大学生活の後半を迎えても訪問するチャンスがなく、これらの課題は持ち越しになっていた。海外に行く機会が何度あってもいっこうに沖縄県内にすら出向くことはなく、「最果て」制覇までの道のりは遠くなるばかりであった。

そんな中ある機会に恵まれて、私は与那国に行くこととなった。棚からぼたもち、あるいは文字通り渡りに船といったところだが、いざ行くとなると尻込みするものがあった。航空運賃が高く、下手すれば近場の海外に行く方が安い方ではと思えるほどの値段だったためである。
たしかにJALのタイムセールをうまいことつかめば石垣→与那国で7,700円(+空港使用料)になるのだが、いかんせん客席数も少ないのですぐに埋まってしまうし、なにより気に食わないのは味気なく20分ほどで目的地に着いてしまうことである。これではつまらないと思って那覇から行くのであれば、東京→那覇と同じ航空運賃(タイムセールで予約しても片道1万円超え!)が待ち受けている。

そんな中、石垣島から与那国島へフェリーがあることを見つけた。週2便ではあるが、スケジュールに合わせ大学を自主休講すれば問題ない。大学生の今だからこそ乗れるものや、感じられるものがあるはずだ。なによりも航空運賃がこのような体たらくでは陸路でゆっくり移動する方がずっと安上がりだし、4時間の航海も夜行フェリーが好きな自分にとっては苦でない。

そうして無計画な私は、一路石垣島へと旅立った。


(情報は2024年10月現在)

石垣港

2024年10月11日(金) AM8:30

一面の雲から、ときおり晴れ間が顔をのぞかせるある日。
この日は週に2日(毎週火・金曜)だけの、与那国島へのフェリーが出航する日だ。

人口5万人の石垣市はたしかに規模こそ小さいが、八重山一番の都会である。市街にほど近いフェリーターミナルからは周辺各島への船便が頻繁に出ており、朝いちばんの港はそこそこにぎわっていた。
早速切符を買いに行こうと建物内の切符売り場に出向く。ターミナル内では汽船会社ごとにカウンターが分かれており、会社ごとに竹富島だとか、西表島だとかの呼び込みをやっている。さながら中央アジアにおけるマルシュルートカのターミナルだ。

しかし、いっこうに「与那国」と声がかからない。ターミナル備え付けの時刻表には周辺離島の中で与那国島の名前だけなく、加えて福山海運のカウンターも見当たらない。偶然にも目の前に旅行代理店があったので、フェリーの乗り場はここで合っているのか聞いてみた。

「福山さんのフェリー?ああ、向こう岸ね」

どうやらここで合っているらしいが…

どう見ても漁港にしか見えません。対戦ありがとうございました。

730交差点の近くにある案内板は「与那国・鳩間行きフェリー」とわざわざこの場所を指定していたので覚悟はしていたのだが、まさかこんなローカル感あふれる港がいまだ現役だとは思わなかった。赤い屋根の建物はきっぷ売り場で、ちょうど乗客らしきバックパックを背負った数人の個人旅行者がベンチに坐って乗船を待っているところだった。

早速乗船券を購入。現金しか受け付けていなかったために少し手間取ったが、なんとか規定時間(30分)前にありつくことができた。ちなみにこれは現地で知ったことだが、学生料金の適用には学割証(JR券のために使用する緑の紙)の提示が必要らしい。そのせいで余計な数百円を支払うことになってはしまったが、運賃がまだまだ安価なのはありがたい。詳細は不明だが、往復券は割引もあるようだ。

【運賃】(片道)※ 2024年3月末現在
大人:3,610円
学割:2,890円
小人:1,810円
身障者:1,810円

https://welcome-yonaguni.jp/guide/3709/

まだ時間があったため近くのコンビニで買い出しをし離岸30分前ちょうどに再びターミナルへ出向くと、ボーディングブリッジがすでに展開されていた。切符売り場にたむろしていた旅行者たちは既に乗船を終えており、私もそれに続く。

石垣港の桟橋

船内

船はたしかに今まで乗ってきた貨客フェリーより何回りも小さかったが、設備はまとまっていて使いやすかった。私が陣取ったのは桟敷席だったが、きちんと毛布・枕が完備されており眠り心地がかなりよかった。そのほかには短距離フェリーらしい個別の座席や、2階屋外デッキのグループ席、そして屋上のテラスにも数席だが1人がけのベンチがあった。もし難点を挙げるとすれば…

海鳥の鳴くいい天気…なのだが

ものすごく揺れることだろうか。事実下船時にデッキに立ち入ると大きな波が直撃した形跡がみられ、その揺れが特に激しかったことがうかがえた。この事象は巷で言われている通りのことだが、想像の3倍ぐらいは揺れていたと思う。画像のような晴天白日かつ波の高くないコンディションでも、小舟に乗ったような大きな揺れを体感することができた。
ちなみに船内のいたるところにはエチケット袋があり、急遽の体調不良であっても応急的な対応 (?) はできるようになっている。船内トイレに至っては「専用」の洗面台まであって、ずいぶんと用意周到である。幸いにも、自分がお世話になることはなかったのだが。

航海中には、インターネットを一応利用することができる。「一応」と前置きを入れたのは使えない時間があるからで、西表島が見えなくなったあたりから与那国島が見えるまでは通信会社の電波をキャッチすることができず、だいたい30~40分ほど利用することができない。離島や秘境にも強い(とされる)NTT D〇C〇M〇を以てしてもそうなので、ほかの通信会社を使っている場合はさらに使えない時間の長いことが予想される。 
なおコンパクトなフェリーなだけあって船内娯楽には乏しいが、2階ロビーには漫画が一定数備え付けられている。ちょうど4時間の航海中に十分読みきれる量ほどの単行本がそろっているので、退屈な時間もこれで潰せるだろう。

これらをフル活用したり寝たりして時間をつぶしていると、与那国島が地平線の先から見えてきた。これが船旅一番の醍醐味なのだが、今回の入港に際してはひとつ見ておかなければならないものがある。

日本最西端・西崎いりざき
島の東端が東崎あがりざきなので、シンプルでなかなかに深みのあるいい名前だ。なににせよ、このようなポイントを洋上からみることのできる「最果て」は、日本では唯一ではないだろうか。乗客も右舷に集まり、灯台を背景に多くの写真を撮っている。静かだった船内に賑わいが戻ってくる、下船前のハイライトだ。

西崎灯台を眺めてから10分ほどで、与那国港に着岸。こちらもボーディングブリッジは簡素なもので、フォークリフトでその位置や高さを調整する様子を見ることができる。下船時に乗船券は上陸券として回収されるので、記念に持って帰れないのは哀しいが最後まで大切に持っておきたい。

14:00 (定刻) 与那国港 入港

与那国港。赤い屋根がフェリーターミナル

与那国にて

与那国側の港は、久部良という集落にある。ほかの集落へ行くコミュニティバス(無料)の発車時間まではまだ1時間強あるので、しばらく近辺を散策することにした。ちなみにここから日本最西端の碑までは徒歩15分(ただし長い急坂を上ることとなる)なので、弾丸旅行の場合はこのタイミングで行っておいたほうがいいかもしれない。

フェリーターミナルの隣には、漁協の食堂がある。フェリーが着いてからはやっていないので弾丸旅行者には使いづらいのだが、翌日昼に訪れた際に味わったカジキの竜田揚げは絶品だった。
…ここからの話題は、紙幅の都合上与那国島のレポートとして改めてお伝えすることにしよう。

雑感

「フェリーよなくに」は週に2回しかない航路ではあるが、予定を合わせて乗ることさえできれば石垣までの飛行機と組み合わせ、最安かつロマンのある方法で日本の最果てまで直行できる貴重な手段である。一方で船酔いをする人には、その揺れが意外にも激しいことから向いていないかもしれない。
なお、筆者はこのあと飛行機で那覇まで帰った。1時間少々のフライトで旅人にとっては便利なはずなのに、どこか寂しく感じられたのは気のせいだろうか。

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