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35.全身麻酔の謎②
術後、少し時間が経ち、心に余裕が生まれたのか、記憶のない手術中に行われていたことを調べ始めた。
◆◆全身麻酔◆◆
そもそも全身麻酔の目的は、
鎮静
鎮痛
筋弛緩
とのこと。
ただ寝ているわけではなく、痛みを取り除いたり、暴れたり、筋肉の硬直が起こらないように、筋肉に力が入らないようにして、安全に手術が行われるようになってるらしい。
そもそも、正確に確認できる全身麻酔の記録としては、1804年11月14日に華岡青洲が行った乳がんの手術が初出とのこと。 このとき用いられた麻酔薬「通仙散」はチョウセンアサガオにトリカブトやトウキなどを配合した薬品らしい。
もう200年以上も実績があるんだ。
しかも、私と同じ乳がんが初めてだったとは感慨深い。
トリカブト、チョウセンアサガオは毒がある。麻酔には麻薬もあったり、使用方法によっては法に触れるような「悪」とされているものが、たくさんの人の不安や痛みを取り去ってくれているのか。
しかし、200年以上もの実績があるにもかかわらず、実は脳の機能を一時的にシャットダウンするメカニズムは未だに解明されていないらしい。
よく分からないものを使い続けていることもすごい。
筋弛緩薬のみを打てば、人は呼吸が出来ず、立つことも出来ず、死んでしまうらしい。
痛みや不安を感じさせないために、意識もない、呼吸も出来ない、動くことも出来ない状態へ麻酔薬で生と死の狭間に誘われるのだ。
人を簡単に死に追いやるものを使って、プロの麻酔科の先生たちが上手くコントロールして、私たちを痛みや不安から守ってくれていたのだと思うと泣けてくる...。
人が全身麻酔で落ちる瞬間をYouTubeで見た。
私も可能であれば、意識のない時間にカメラを回して欲しかった(笑)
みんな注射器に入った白い液体を打ち切るとす〜っと落ちていく。
みんな白い液体を打ち切っているのは体重などから、量が決められているのだろうか...。
意識を失った人は、人として扱われている感じではなかった(笑)
◆◆気管挿管◆◆
落ちた後は、アゴをくいっとあげて、鎌のようなものを喉の奥へつっこみ、気管挿管が行われる
見ているだけで、オエッとなりそうだが、やられている人は意識がないので、ぐったりし、なすがままだ。
入院前に、歯のクリーニングを勧められた。
直前にも問診で、グラついている歯がないか確認された。
口の中にバイ菌が溜まっていると、気管挿管時に肺に菌が入って肺炎を起こしたり、人工呼吸器を出し入れする際に歯が抜けてしまうという話もようやくわかった。
私にも人工呼吸器が取り付けられていたことが、手術後初めての食事でパンが飲み込みづらかったことで発覚する。
◆◆絶飲食◆◆
手術は11:30からだったが、前日の21:00から禁食、24:00からは禁飲だった。
禁食はわかるが、禁飲も随分前からなんだなぁ...。
何も飲まなくて大丈夫なんだろうか。
(水分は点滴で補充されていたらしい)
これも、手術中に胃の中にものが入っていると吐き出してしまう可能性があるからとの事。
力が入らないんだから、消化もできないはずよね。
◆◆尿管カテーテル◆◆
意識を失った後に、尿管カテーテルも通される。
尿管カテーテルの目的は、導尿と体から排出される水分の測定らしい。
どのぐらい体に入って(点滴)、どのぐらい出ていくかをコントロールしているらしい。
尿管カテーテルは直径5mm程あるようで、そんなもの突っ込まれたのかと思うと、記憶がないってホントすごいと思う(笑)
私は抜管した時は痛みはなかったが、男性は痛みを感じる人が多いらしい。
実は私は入院の前日に生理になった。
手術日が1番ひどい予定だった。
看護師さんにもその旨を伝えていたので、手術室にも下着とナプキンをつけたまま入室した。
手術中のことはわからないのだが、日に日に生理がひどくなるどころか手術が終わるまでほとんど出血しなかった。
体がビックリしたのだろうか...。
手術前日に発熱したり、血圧が上がったり、生理が止まったり。
私以上に、私の体は不安だったのかもしれない。
さらに不思議なことに、筋弛緩薬を使っても、心臓は動いているらしい。
ニンゲンの体は本当に不思議だ。
◆◆メスを入れる位置◆◆
人工呼吸器、尿管カテーテル、心電図、血圧計、点滴...が私の体には装着されていたと思われる。
それ以外には、私の右胸は3パターンの切除ラインがマジックで描かれていたようだ。
手術日の朝検査した、センチネルリンパ節(※)を特定する検査に基づき、私のセンチネルリンパ節が手術中に特定され、その位置と私のがんの位置から切除する箇所を決定したようだ。
※ センチネルリンパ節とは見張りリンパ節とも呼ばれる。悪性腫瘍病巣などの局所から流れ出たリンパ液が最初に入り込むリンパ節のこと
手術当日、その場その場の判断が要求されるんだなぁ。
私は手術前の外来で、乳輪に沿ってメスを入れる予定だと聞いていたが、実際にメスが入ったのは、脇から胸の脇に沿って、10cm程の縦の傷だった。
2箇所切るよりは傷の大きさは大きいのかもしれないが、私は脇に傷があってよかったと思っている。
どう切るか、実際に私の胸にパターンを描き、最良の方法で行われたということだろう。
驚くことに今日ここに書いた記事は、私には何一つ記憶がない。
聞いた話と調べた話で、私の空白の時間を埋めたようなカタチだ。わからないものはわからないままだが、なんだか安堵と裏腹に高揚し、感謝に気持ちでいっぱいだ。
全身麻酔とは、実例はあるものの、メカニズムは解明されておらず、死に近い状態に持っていって、不安や痛みを取り除き、またこの世に覚醒させるものすごいものなのだ。
もはや感謝しかない。
執刀医の先生だけでなく、私の手術に関わってくださった全ての方にお会いして一人一人お礼を言いたい。
まさにプロの成せる技。
年齢や体重、アレルギーや病状、十人十色の人たちを死に近い状態へ持っていき、覚醒させる。
◆◆安楽死◆◆
話は突然変わるが、
私は安楽死を、尊重したいと思っている。
今は日常に戻りつつあるが、数ヶ月前は私の頭にも幾度となく死が過った。
それは、想像を遥かに超える不安とストレスだ。
正直、私は苦しい、痛い、辛いと思い続けるのなら、いっそ死んでしまいたいと思う。
それは自分だけではなく、家族であっても本人が望み、看取る人が理解すれば、安楽死はあってもいいと思っている。
それが認められる日が来て、私が再び生きるのがツラいと感じたら、全身麻酔で落ちて、その後、致死量まで盛ってほしい。
そのぐらい全身麻酔は不思議で、また味わってもいいと思えるとても不思議な体験だった。
※安楽死に関してはあくまで個人的な意見です