沈潜
大学で借りた新書を読んだ。よくTBS?の土曜夜の報道番組に出てる齋藤孝氏の著作のひとつである。ところで番組名が思い出せない。7 Days なんとか…安住アナと去年度までタケシがやってたやつ。まあそれはいい。
本のタイトルは『ネット断ち 毎日の「つながらない1時間」が知性を育む』。この本が良かったという話をネットでしてしまうわけだが、使い方を間違えなければネットは悪いわけではない、と齋藤先生も述べている(まあ今の時代インターネット自体を全否定する論調は到底受け入れてもらえないので殆ど見かけないのだが)。
印象的なものとして、SNSをやっている人は呼吸が浅いという指摘がある。つまり交感神経がオンになっていて、常に軽い興奮状態にあるのだと。実感に伴っている。自分はインターネットで色々見ている時、もちろん良いものや可愛いものを見てニコニコすることもあるのだが、基本的には自らイライラしに行っているきらいがある。
それ自体にも自分なりに意味を見いだしていて、怒りという感情は大切だと考えているから。社会に蔓延る前提や「こうあるべき」に対して1度違和感を覚えたら、次第にそれは確かな怒りへと変化し、言動が改まる。それ以前の自分にはもう戻れない。このあたりは最近KADOKAWAから出た『君の心に火がついて』という漫画作品がとても素晴らしいので何か心当たりのある人は是非手に取ってみてほしい。装丁も良いので平置きになっているところでよく目につくと思う。
それはさておき、ネットをやっていて湧き上がった怒りはネットでしか発散できない。いや、必ずしもそうではなく現実にはパレードや署名運動などを行ってもっと主体的に行動する人々もたくさんいるのだが、自分の場合は文字を読んでキレて文字を打ってたまにスッキリしたり、もっとイライラしたりすることがいつものことである。
そういう姿勢がダメというわけではないが、ずっとそんな状態では埒が明かない。著書のサブタイにあるように、1日1時間でいいから本を読もうということである。それも、沈み込むように読むのである。
そもそもキレるためにもある程度の教養が無いとキレ切れない。エコーチェンバーとはよくいったものだと思うが、ネットのコミュニティは「見たいものだけ見る」という人間が元々持ちがちな特性を更に強めるものである。そこでは予め自分が正しいと信じる何かがあり、タイムラインに流れてくる情報がそれを補強する。それをもとに、合わないものにキレるというのはやはり限界があるはずだ。幅広い見識を持つことは大切である。
本を読む上でのキーは、追体験にあるという。古今東西の様々な作家が、当時の社会情勢や諸々の背景の中で考えたことを書いたものが、時代の風に耐えて今も残っている。それらをひとつひとつ咀嚼して自分がまるで体験したかのように自らの内面に取り入れていくことが出来るのは、そう考えただけで既に心強い。要は、価値判断の軸の中に落とし込めるということだ。
また、自我消耗というワードも心に残った。この本の中ではお店で30種の商品と6種の商品を並べたところ、前者と比べて後者は圧倒的に買われたという実験結果から、人は選択肢があまりにも多いと選ぶのを諦めてしまうということを紹介している。
確かにその通りである。自分も本屋と古本屋に頻繁に行って色々と買ってきては棚に陳列して満足しているが、そこからロクに読み切ったものが生まれないのは、読みたいと思って購入したものが多すぎて実際に手にしてからは優先順位をつけて選べていないからなのだ。
齋藤先生は読書会を重視しているようで、東大でのエピソードや旧制高校の寮であったという光景を読むと、すごく楽しそうに思える。読んだ本について人と議論を交わした経験がこれまでにあっただろうか…?
5月の文学フリマ東京に行った際、休憩したり待ち合わせしたりするスペースがあった。自分は単にネットでブースを検索するためだけにそこへ一旦よけたのだが、待ち合わせをしている人たちもそれなりにいた。僕の隣にいた男性に、奥から来た女性が声を掛ける。
「すみません、○○さんですか?」「あっ、そうです!△△さんですよね?」と。
どうやら呼びあっているのはハンドルネームで、初めてのエンカウントという感じだった。続いて
「今日どれくらい買いました?」「もう1万円くらい使いましたw」みたいな。そして女性の方が
「今日ここ来る前にZoomで読書会してきて、それで今ここ来て、このあと夕方からまた別の読書会なんですよ笑」と言った。なんて文化水準の高い1日なんだ…と横にいて勝手に感心してしまったのを覚えている。
同じものを読んでも全く同じ風には読まれない。そこからどう動くかが分かれ道。違う意見とのぶつかり合いを避けたり、拒絶してしまうのか。それとも積極的に耳を傾けて自分の読み方の1つに加えつつ、改めて自分の考えも発信するのか。
後者がいいのは火を見るより明らかなはずだが、SNSを中心に回る日々の中では失われつつあるスタンスだとも思う。
ところで、去年の秋に某大手出版社の質問会に参加した時、漫画編集の方が大学3年のその頃やっていたこととして、「1日1冊本を読むこと」を挙げていた。それから映画も沢山見て、思ったことを書くようにしていたと。自分の中に色々な物語が無ければ、面白いものは作れないもんなあと、この新書を読んだ後思い出して改めて感じた。
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