ガチャフィギュア工場のひみつ
キネとミノ#5 ガチャフィギュア工場のひみつ
あらすじ
大好きなガチャフィギュアシリーズの新作を揃えるためサイフの限界に挑戦するミノと、それを応援するキネ。ふたりはフィギュアを見ながら、それを作った女の子のことを空想する。果たして、ガチャフィギュアはすべて揃うのか…?
Part1 ガチャガチャにハマるミノ
ある日の帰り道。キネとミノのふたりは、その日受けた授業で社会科の先生が言っていたことについて話をしていた。それは、こんなふうなことだった。
「まず、わたしたちの身の回りにあるものを思い浮かべてください。机と椅子、ペンと消しゴム、時計と窓ガラス。食べ物、洋服、本、映画や音楽。これらはいったい、だれが作ったのでしょう?
つづけて、通学路や街にあるものについて考えてください。駅やビルなどの建物。レストランやドラッグストア、八百屋や雑貨店のようなお店。車や電車などの乗り物。公園、港、道路、畑。この学校。
わたしたちの生活に関わりのある、すべてのもの。それらはどれも誰かが作って、運営し、維持しているものです。ありのままの自然以外に、人の手が加わっていないものなどひとつもありません。世の中のことについてよく知れば知るほど、そのことをたしかに感じられるようになります。そしてそのためには知識だけではなく、想像力も重要です。
見えない仕事と、見えない歴史。でもそれらはたしかに、わたしたちと同じ生きた人間が作り出したものです。それを実感として持てるようになると、きっと会ったこともない人に感謝したくなるし、ものを大切にしようという気持ちになりますね。そしてそれは、あなたたちの将来の選択にも、何かしらの良い影響を与えるはずです…」
この先生の言葉を思い出してキネは言った。
「今日の授業で先生が言ってたのって、けっこう目から鱗だったよ」
「そうだねえ。言ってることは当たり前なんだけど、これまでそういう視点でものを見たことって、あんまりなかったかもね」
「そうそう。わたしは素直に感心しちゃったな。親とか先生みたいに身近にいる人にはありがとうって思うけど、会ったこともない人のことなんて考えたこともなかったよ。ご飯食べに入ったお店でごちそうさまでしたっていうくらいかな…って、あれ、ミノは?」
キネはとなりを歩いていたミノの姿が消えていることに気がついて、後ろを振り返った。すると、大型電器量販店の前で立ち止まっているミノが目に入った。
キネはミノのところに戻ると、その視線の先を覗きこんだ。ミノは店の前にずらりと並んだガチャガチャを見ていた。彼女はひとりごとのように言った。
「これ、この前集めたやつの続編だ。これは廻してみないと…!」
そう。それは、ミノが好きなガチャフィギュアシリーズの新作だったのだ。
がんばれ!くま天使シリーズ 第2弾「世界で働くくま天使」編
- コサックダンスをするくま天使
- すし職人になったくま天使
- 傭兵になったくま天使
- へび使いになったくま天使
- 雑技団に入ったくま天使
全5種、一回200円
〜シリーズ解説〜
立派な一人前の天使になるため、
くま天使の子どもがさまざまな試練に挑む…!
第2弾はワールドワイドな大特訓。
ついに海外へと進出したくま天使が、
世界各国の特色ある職業に挑戦する。
「わあ。今回は『世界で働くくま天使シリーズ』だって。あたし、前のやつはがんばってぜんぶ集めたんだよ。キネ、ちょっと一回やってみてもいい?」
「うん、いいよ。だけどミノって、こういうの好きなんだ。なんていうか、ちょっと意外だね」
キネのことばも耳に入らないようすで、ミノは財布から小銭を取り出すとガチャガチャに入れた。それからノブを持って、ゆっくりとそれを回した。
がちゃ…がちゃ…がちゃ…がこ! ころん。
「出てきた、出てきた。さて、さいしょはなにが来たかな?」
ミノはそういいながら半透明のカプセルをかぱっと開けた。するとなかから、チャイナ服すがたで一輪車に乗ったくま天使が登場した。
「かわいい〜!見てキネ、すまし顔で一輪車に乗ってるよ」
「あ、かわいい。よかったね、ミノ」
「さて。あと何回廻せばぜんぶ揃うと思う?」
「え? ぜんぶ?」
おどろいたキネがそう訊き返すと、平然としたようすでミノは言った。
「だって、まだ一回しか廻してないよ? こういうのって、あたしはきっちり揃えたくなる方なんだから」
そう言いながら制服を腕まくりすると、ミノは財布のなかから次の小銭を取り出した。おどろいたままのキネは言った。
「ええ!こういうのって、欲しいやつだけ当たったらそれでいいんじゃないの?」
「はあ…。キネはなにもわかってないよ。こういうシリーズものはね、コンプしないと意味がないんだよ。ラインナップの欠けたコレクションなんて、見ても虚しいだけ。一式ずらりと並べるのが気持ちいいんだから」
「そ、そうなの? じゃあ、ぜんぶ揃うといいね」
「よし。それじゃあ、じゃんじゃん廻してくよ!」
今回のシリーズは、全5種類。奇跡が起きれば5回ですべてが揃うはずだけれど、もちろんそんな奇跡は起きなかった。5回廻してなんとか3種類まで揃ったものの、あとはダブりだった。あがった息を抑えようと胸を押さえてミノは言った。
「くっ、もう千円も使ってしまったか…」
「ま、また今度にしてもいいんじゃないかな? なにも今日ぜんぶ揃えなくてもさ」
キネがたしなめるようにそう言うと、ミノは頭を振った。
「だめ!このシリーズってね、すごく人気なんだよ。出たらすぐなくなっちゃうの。だからなくなる前に、今日ぜんぶ揃えたい。けどもう小銭ないから、ちょっと両替してくるね」
そう言ってミノは足早に電器店のレジへと向かった。その後ろ姿を見ながらキネはつぶやいた。
「ミノって、たまにへんなのにハマるよね…。たしかこの前も、つげなんとかって名前の、すっごくマイナーな漫画をブックオフ回って探してたような…」
「お待たせ〜。さて、これであと5回廻せるからね。それで揃うでしょ、きっと」
そう言ってミノは再びガチャガチャを廻し始めた。
がちゃ…がちゃ…がちゃ…がこ! ころん。かぱ。すしくま天使。
へび使いくま天使。傭兵くま天使。中華くま天使。すしくま天使。
これで4種類までは揃ったものの、最後のひとつ、『コサックダンスをするくま天使』はどうしても出なかった。からっぽの財布を握りしめたミノは、ゼツボウ的な顔で言った。
「うう、もうお金ない…」
「それに、ちょうど今のカプセルが最後の一個だったみたいだよ」
キネはガチャのなかを覗き込みながら言った。からっぽなのはミノの財布だけではなく、ガチャ筐体のなかも同じだった。
「ええー!しまった、今回は見つけたのが遅かったか…。これはもうネットで探して買うしか…」
「まあまあ。きっと、まだ他にも売ってるとこあるよ。ネットで買う前に一緒に探そう?」
「あうぅ、なんて運がないんだろ…こういうのはね、コンプしないと、意味なんかないんよ…」
そう言うと、ミノはがっくりと肩を落とした。キネはめずらしいほど落ち込んでいる友人を慰めようと言った。
「よしよし。ねえミノ。せっかく買ったんだから、とりあえずミノの部屋で開けて並べてみよう? そうだ、わたしにも前に集めたやつ見せてよ。そっちはぜんぶ揃ってるんでしょ?」
「うう、わかった。だったら遊びにきて…」
そう呟くとミノはとぼとぼと歩き出し、キネはそのあとにつづいた。
Part2 ミノの部屋で
ミノの住むマンションに着くと、ミノは髪をほどいて私服に着替えた。その間に、キネはミノの部屋を見渡した。
ミノの部屋はきれいに整理されてはいるけれど、ものは多い方だ。本棚にはぎっしりと本やマンガが並んでいるし、服や小物もキネが持っているものより多かった。部屋にはほんのりと、お香のような気持ちのいい香りが漂っていた。
キネはミノの部屋に遊びにくるのが大好きだった。そうしたものに囲まれていると、とても居心地がいいのだ。
そんな彼女の本棚のうえには、小さいフィギュアがいくつも並んでいた。それを見つけたキネは言った。
「あ、これがそうだったんだ。なんだろうって思ってはいたんだけど、ぜんぶガチャガチャだったんだね」
「そう。これはさっき廻したシリーズの前のやつで、我慢するくま天使っていうんだけど。これも揃えるのに苦労したな〜」
がんばれ!くま天使シリーズ第一弾!「我慢するくま天使編」
- 我慢して熱湯風呂に入っているくま天使
- 我慢して激辛カレーを食べているくま天使
- おおきなクマをおんぶしているくま天使
- 背中がかゆいのを我慢しているくま天使
- 雪だるまにされているくま天使
全5種、一回200円
〜シリーズ解説〜
立派な一人前の天使になるため、
くま天使の子どもがさまざまな試練に挑む…!
第一弾は我慢と忍耐、汗と涙の大特訓だ。
「なるほど。わたしはこのカレー食べてるやつ、好きだな」
「そうでしょ? これは、ぜんぶ集めなきゃってなっちゃうでしょ?」
「う、うん。だけどこれ、よく出来てるよね。こんなに細かいのに、ちゃんと色も付いてるし、質感もパーツごとにちゃんとしてるし」
「そう。そこがまたコレクションしたくなる感じなんだよね」
「ここにあるのは?」
「それはくま天使とは別のシリーズのやつで、ペンギン天使っていうの」
「ふーん。これもかわいいね」
「うん。でも、年々クオリティがあがっているからね。今回のやつがこれまででいちばん出来がいいと思うな」
手にとったフィギュアをまじまじと眺めながらキネは言った。
「こういうのもさ、ぜんぶ作っている人がいるんだよね」
「そうだねえ。企画はもちろん日本でやっているんだろうけど、作るのは中国とか、東南アジアのほうでやってるって聞いたことあるね」
それを聞いたキネは、ふと思いついたような表情になった。
「ねえミノ。今日の授業で聞いたことじゃないけど、ここはひとつ勉強がてら、どんな人がこのフィギュアを作っているのか想像してみようよ」
ずっとテンションの下がっていたミノだったが、このキネの提案を聞いてすこし元に戻れたようだ。彼女はにこっとして言った。
「それ、面白そうだね。そういうことなら、あたしもちょっと考えたことがあるし」
「おお、さすが。こういうのって、やっぱり手作業で作ってるんだよね?」
「だと思うよ。フィギュアってすぐ中身が変わっちゃうじゃない? 中身がずっと同じなら食品工場みたいにラインを作ってオートでやっちゃうんだろうけど、そういうわけにもいかないから、結局手作業になるんだよ。パーツが細かくて、機械にはむずかしいだろうし」
「授業でやってたけど、わたしたちと同じくらいの子も働いてたりするんだよね。そうなると、こういう生き物がほんとうにいると思って作ってるかも」
「うーん、さすがにそれはないと思うけど…」
ふたりでガチャガチャの中身を作っている中国か東南アジアのどこかにいる女の子のことを空想した。キネは言った。
「わたしは設計図を見ながら、なんだこのへんないきもの、って思いながらフィギュアに色を塗って、それを組み立てています…」
それを聞いたミノは口を挟んだ。
「ちょっと待って。たぶんだけど、いまの工場ではひとつのものを全部ひとりで作るなんてことはしてないと思うな。きっと分業してるはず」
「あ、そうか。じゃあちょっと修正するね。こんな感じかな…ミノ、またへんなところがあったら言ってね」
「わかった。せっかくだから文字に残しておこうっと」
そう言うとミノは引き出しからノートとペンを取り出した。そうしてふたりは、ガチャフィギュア工場で働く女の子の空想をはじめたのだった。
Part3 ガチャフィギュア工場のひみつ
わたしが働いているのは、小さな町工場です。ここはわたしの家のいちばん近くにある工場で、わたしは学校を出てすぐここで働きはじめました。ここでわたしは、毎日へんないきものを作っています。
細かなパーツからできた人形や生きもの。これはフィギュアというそうです。わたしはここでフィギュアを作ることで家計を助けています。なんのためにこれが必要なのかはわかりません。なかには可愛いのもあるけれど、気持ち悪いのも多いからです。これがあっても、まず生活の役には立たないような気がします。役に立つっていうより、飾ったり集めたりして遊ぶのかな? 用途は今ひとつ、よくわからないです。
この工場で作られたへんないきものは、ぜんぶ日本に行くそうです。いったいどういう人がわざわざこれを買うんだろう? 男の人なのか、女の人なのか。大人なのか、子どもなのか。日本人がなにを考えているのか、わたしには想像もつきません。
でもたまに、かわいい女の子のキャラクターや、へんてこだけど可愛げのある生き物を作ることもあります。そういうときはいつもよりちょっとテンションがあがります。
それに、見本どおりじょうずに作れるようになって、作るスピードがあがってくるとうれしいです。一日にたくさん作れるようになるとリーダーから褒められますし、給料もちょっとあがるからです。工場の業績があがると、ランチにデザートがつくこともあります。ボーナスを貰うことだってあります。
わたしが働くこの工場には、ちょっとしたひみつがあります。それは、じつはここで作られている生き物はフィギュアではなく、ぜんぶ本物…なのではなくて、リーダーにお願いすると、出来上がったのをひとつ分けてくれることがある、ということです。
先輩たちは見慣れているのでもらったりすることはあまりないみたいだけど、わたしはまだ新人の部類だし自分の作っているものへの愛着もあります。それに正直なところ、とても可愛いのが来るときがあるんです。そんなとき、自分用にひとつ欲しくなることがあります。記念というかトロフィーというか、そういうものの代わりとして。
わたしがそんなお願いをすると、リーダーは完成したフィギュアを作業中に壊れた個数に含めるとかそういう扱いにして、「仕方ないな。本当はダメなんだぞ」とかぶつぶつ言いながらも、ご褒美としてわたしに分けてくれるのです。このことは、部外者の人にはぜったいにひみつです。
リーダーはだれにでも分けてくれるわけじゃありません。もしわたしが適当な仕事をするような人だったら、そんなお願いは聞いてもくれないでしょう。やはり普段からまちがいのない仕事をして、いい顔をしておくことが大切です。そうしておくと、可愛いのが来たときにお願いしやすくなるからです。お願いしても、まあいつも頑張ってる方だし、それくらいならいいか、っていう具合です。
わたしは仕事が終わると、自分専用のマスクと作業場のブースを毎日きれいにして帰ります。いつも帰る頃になると、わたしのユニフォームはスプレーの色で染まっています。洗ってもなかなか落ちないので多様な色で染まっているのですが、そのうえからさらにあたらしい色が乗っかって、日々更新されていくわけです。その毎日変わる模様を見るのが、わたしは好きです。
そうして家に帰ると、わたしの部屋にはへんてこだけど可愛げのあるフィギュアがいくつか、窓ぎわに並んでいます。ぜんぶリーダーにお願いして貰った、お気に入りのやつです。さいしょはひとつだけだったのが、今では窓ぎわの端から端まで届きそうなくらいに増えています。これを見ると、また明日もがんばろうかなって思えます。
そして、日本ではどんな子がこれを買うんだろうと空想しながら、わたしは眠りにつきます。わたしと同じくらいの女の子が、やはりわたしと同じように可愛いと思って買ってくれるのかもしれない。そうだったらいいな、なんて考えながら…
おやすみなさい。
〜ミノのノートより〜
Part4 ガチャフィギュア・コンプリート!
「あたしはどこかでガチャフィギュアを作っている女の子のためにも、このシリーズをすべて集めないといけないんだ…!」
「おお、今日のミノはさらに気合が入ってるね。でも、なんかちょっと趣旨が変わっているような」
後日。くま天使のガチャガチャが設置されている場所を求めて、休日のミノとキネは街中のお店を回っていた。ガチャフィギュアを製造するメーカーのホームページからは、ガチャガチャを設置しているお店のリストを手に入れることができた。ふたりはそれを頼りに何件も探し歩いたが、どこのガチャガチャも完売していた。くま天使シリーズは、ほんとうに人気があるようだ。
夕方になってほとんど諦めかけたふたりだったが、ダメ元でアーケードの商店街を歩いて、ガチャガチャがありそうなところを探した。おもちゃ屋さんや電器屋さん、ゲームセンターに本屋さん。ひとつ、またひとつと候補がなくなっていく。その度にミノの顔から生気が抜けていき、キネはミノを励ましつづけた。
しかし、そんな彼女たちをくま天使は見捨てなかった。それは赤い夕陽に照らされた小さなゲームショップの前にあった。キネは言った。
「こういうお店って、まだ生き残ってるんだねえ」
「でもだからこそ、こういう掘り出し物が残っているってことだね。そしてここがおそらく、最後の砦。残るはロシア、コサックダンスをするくま天使は、きっとここにいる…!」
普段ミノはおとなしい。そんな彼女はここに来て、かつてない気迫を見せはじめた。彼女はお店の外に設置されたガチャガチャにお金を入れると、力を込めてゆっくりと廻しはじめた。
がちゃ…がちゃ…がちゃ…がこ! ころん。かぱ。中華くま天使。
がちゃ…がちゃ…がちゃ…がこ! ころん。かぱ。すしくま天使。
がちゃ…がちゃ…がちゃ…がこ! ころん。かぱ。傭兵くま天使。
「出ない…」
「がんばって、ミノ!次はきっと当たるよ」
がちゃ…がちゃ…がちゃ…がこ! ころん。かぱ。
すしくま天使。蛇使いくま天使。すしくま天使!
「うう。すしばっかり出る…」
「中にはまだカプセルが残ってる。諦めちゃダメだよ、ミノ!」
「いや。もうあたしはダメだよ…。今月のおこづかいから投資できるお金は、あと残り一回分しかない。あたしはきっと、もうガチャ運を使い果たしてるんだ。だから最後の一回は、キネが廻してくれない…かな?」
「ええ、わたし? まあ、くじ運は悪くない方だと思うけど」
「お願い!出なくてもぜったいに怒ったりしないから!!」
そう言うとミノは両手を合わせてキネを拝んだ。
「うーん、そこまで言われたら仕方ない。じゃあ、ちょっとやってみるよ。ハズレたらごめんね」
そのようにして、最後の一回はキネに託された。キネはミノからお金を受け取ると、それを入れて勢いよくノブを廻した。
がちゃ…がちゃ…がちゃ…がこ! ころん。かぱ。
\ コサックダンスをするくま天使! /
それを見たミノは、おもわず歓声をあげた。
「すごいよキネ〜!ありがとう!!」
「偶然だよ、ぐうぜん。でも、これでぜんぶ揃えられてよかったね」
「うん、ほんとうにありがとう。お礼に、ダブったやつはぜんぶキネにあげるね」
「え、ぜんぶ?」
「そう、ぜんぶ」
うろたえるキネに、ミノはにこっと笑ってつづけた。
「同じのを並べるのも、けっこう楽しいものなんだよ? 微妙に表情が違って見えて、より生き生きと見えたりもするし。なんせ、あの女の子の手作りフィギュアなんだから!」
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そんなわけでミノの部屋には無事くま天使シリーズが一揃い集まり、キネの部屋にも多数のくま天使が並ぶことになった。眠りにつく前、ふたりはそれぞれの部屋のガチャフィギュアを見て、同じものがあるそれぞれの部屋のことを思った。そしてフィギュアに色を塗った、とおくの国にいる女の子のことを思った。
キネとミノが空想で作り上げたフィギュア工場に勤める女の子も、眠る前にベッド脇に並んだ自作のくま天使フィギュアを見つめていた。そして、それがどんなふうに日本の女の子を楽しませているんだろうと想像を膨らませながら、すこしだけしあわせな気持ちで眠りについた。
くま天使はそんな彼女たちのことを、月明かりのようにやさしく見守っていた。
(おわり)
テキスト:マキタ・ユウスケ
イラスト:まりな
次回予告#6『バナナフィッシュにつままれた日』
待ちに待った夏休み。フラニーという名の雑貨屋さんでシーグラスについて教えてもらったキネとミノは、さっそく夏の海へシーグラスを拾いに行く。そこでふたりは、同じものを拾っている男の子と出会う。男の子はある事情があってシーグラスを集めていると言うのだが…?
乞うご期待!