【やさしい】排卵を抑える方法【不妊症ガイド】
たなかゆうすけです。
以前に、採卵における卵巣刺激法を決定する要素についてお話しました。
https://note.com/turedureessays/n/n6fa548bec8cd
排卵してしまうと、せっかく刺激したのに卵子が回収できなくなってしまいます。このため、卵巣刺激には排卵抑制が必須です。
その排卵抑制の方法が3つあるというお話をしました。これらの説明と使い分けについてお話していきましょう。基本的には保険診療でのお話をします。
排卵を抑制する方法
排卵を抑制する方法は、点鼻薬を使用する方法と、注射を使用する方法と、内服薬を使用する方法の3つです。点鼻薬を使用する方法が、ショート法、ロング法で、注射を使用する方法がアンタゴニスト法で、内服薬を使用する方法がPPOS法です。これらは排卵をどのように抑えているかということであって、注射薬の使い方、種類や用量では方法は変わりません。
点鼻薬を使用する方法
点鼻薬はGnRHアゴニストという薬剤です。アゴニストというのは『作動薬』という種類の薬剤で、アゴニストを使用することでGnRHと同様の作用を起こすことができます。
GnRHとは、gonadotropin releasing hormoneの略で、ゴナドトロピンを放出させるホルモンを指します。ゴナドトロピンとは卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone;FSH)と黄体化ホルモン(luteinizing hormone;LH)の総称です。卵胞刺激ホルモンの作用で卵巣が刺激され卵胞が発育し、黄体化ホルモンの作用で排卵が起こります。
アゴニストを使用すると、この2種類のホルモンが放出されます。しかしこれは、むしろ排卵させてしまう作用になります。なぜこれが排卵の抑制になるのでしょうか。
実はアゴニストを連続使用していると、ダウンレギュレーションという現象が起こり、これによって自力では排卵が起こりにくくなります。ホルモンの刺激が頻回に起こると、受け取り側が受信機を減らしてしまって、過剰な反応を受け付けないようにしてしまいます。これがダウンレギュレーションで、これが完成した後は、ゴナドトロピンの放出がしばらく起こらなくなります。ずっと勉強しろ、勉強しろって言われていると、勉強したくなくなるようなものでしょうかね。
この点鼻薬を月経開始後から使用する方法がショート法で、月経開始前から使用する方法がロング法です。
アゴニストには内服薬もありますが、保険診療で体外受精・胚移植を行うときには使用できません。
注射を使用する方法
アンタゴニストという注射を使用して排卵を抑える方法が、アンタゴニスト法です。アンタゴニストとアゴニスト、なんだか名前が似ていますね。実はこの2つ、正反対の作用を持っています。アゴニストは単回の使用であれば排卵させる効果を持っていますが、アンタゴニストは排卵を抑制する効果があります。これは連続使用しても変化はしません。
アゴニストによる排卵抑制はいったん出来上がってしまうとなかなか解除されませんが、アンタゴニストによる排卵抑制は割と短時間で解除されてしまいます。この特性が使い分けに関係してきます。
内服薬を使用する方法
内服剤を使用する方法がPPOS法です。PPOSとは、progestin-primed ovarian stimulationの略で、プロゲステロン製剤を排卵抑制に用いる方法です。
プロゲステロンを内服している状態は、ホルモン的には排卵後の状態です。排卵後であれば、さらに排卵させる必要はありませんよね。つまり、まだ排卵が起こっていないのに、プロゲステロン内服薬の作用で脳には排卵が起こってしまっていると誤認させることで、排卵を起こさせないようにすると思ってもらえば良いです。
持続的に排卵を抑制できる非常に便利な方法ですが、プロゲステロン製剤がいったん入ってしまうと適切な時期を逃すと着床しなくなるため、基本的には新鮮胚移植はできなくなります。
まとめ
排卵を抑制する方法は、点鼻薬を使用する方法と、注射を使用する方法と、内服薬を使用する方法の3つあり、点鼻薬を使用する方法が、ショート法、ロング法で、注射を使用する方法がアンタゴニスト法で、内服薬を使用する方法がPPOS法、というお話をしました。
ここまでで長くなってしまったので、使い分けの重要な部分は次回へ回します。
使い分けの肝は…
・トリガーに点鼻薬を使用できるかどうか
・新鮮胚移植を行うかどうか
の2点になります。
また、『トリガー』という新しい単語が出てきました。この解説を含めて、次回こそは、排卵を抑える方法の使い分けについてお話します。
妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…
たなかゆうすけでした。
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