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タイミング法のススメ ~卵胞計測、排卵誘発の実践~ ⑨トラブルシューティング
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トラブルシューティングです。よくあるトラブルとして、
・排卵誘発に反応しない場合
・発育卵胞数が増えた場合
・遺残卵胞を疑った場合
・妊娠しない場合
などがあります。
下に私の対応を記載しますが、あくまでご参考に。
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排卵誘発に反応しない場合ですが、私は上記のように対応しております。内服剤のみで反応が見られない場合は、適宜ゴナドトロピン製剤をspotで注射します。基本は150IUを使用しますが、複数発育を避けるため、投与間隔は基本2日間以上空けています。それでも発育がない場合は、プロトコルの変更を行いますが、一旦月経を起こさないとプロトコル変更ができませんので、E2+P製剤を投与します。レトロゾール1錠で効果が乏しければ2錠へ増量可能です。レトロゾールは最初から2錠投与すると疑義照会されます。クロミッドも増量可能です。反応がなくても同じプロトコルで2周期まで繰り返すことがありますが、私はまた発育しなかった場合に患者様の時間がもったいないので、割とさっさと変更してしまいます。内服剤+ゴナドトロピン製剤で反応がなければ、低用量漸増法へ移行します。低用量漸増法でコントロール不良の場合は、体外受精・胚移植へ移行します。体外受精・胚移植は移植胚数のコントロールができるため、ガイドライン準拠なら品胎以上の多胎になることは多くありません。
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発育卵胞が増加した場合の対応です。多胎妊娠と卵巣過剰刺激症候群の重症化を回避することが最重要です。ガイドラインより、4個以上の卵胞が発育した場合、その周期は治療を行わず、タイミングを取らせないことが推奨されます。この際、hCGなどを投与し排卵させる必要はありません。自然排卵で良いです。複数発育の場合、遺残卵胞化しやすい印象がありますので、次の月経中に遺残卵胞の有無を確認しておいた方が良いと思います。タイミングを取られてしまった場合は、多胎妊娠、妊娠成立による卵巣過剰刺激症候群の遷延が見込まれるため、厳重にフォローしてください。
私見ではございますが、2~3個の発育卵胞数でも、既往帝王切開後など双胎になった場合のリスクが大きい場合にはその周期の治療中止を検討すべきと思います。
発育個数のコントロールが困難な場合には、リスクを十分説明して、勇気を持って撤退していただくことが重要と思います。前述の通り、体外受精・胚移植では移植胚数のコントロールができますので、ご検討いただいても良いと思います。
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ガイドラインでは4個以上の卵胞発育があればその周期は治療中断となっていますが、発育個数が2~3個ならOKなんでしょうか。上記のデータはAIHではありますが、トリガー時に存在した14mm以上の卵胞の個数と妊娠率、多胎率のデータです。排卵個数が増えれば妊娠率は上昇しますが、38歳未満では上昇した分はほとんどが多胎です。また、14mm以上の卵胞が2~3個でも、品胎が1-2%発生しています。もちろんAIHのデータであり、タイミング法にそのまま適用はできませんが、特に既往帝王切開後や円錐切除後などの多胎リスクの高い症例については、慎重になったほうが良いと思います。
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月経中のエコーで遺残卵胞を疑う嚢胞を認めた場合の対応です。まずは誘発せずに経過観察し、1週間後にフォローします。卵胞発育の有無と、嚢胞のサイズ変化で方針を決めます。卵胞発育あれば、そのままタイミングを取ってもらいます。卵胞発育がなく、嚢胞が縮小している場合、卵胞発育を継続フォローします。もともと誘発を予定していた場合、このあたりで誘発の実施を検討しても良いと思います。卵胞発育がなく、嚢胞が不変ないしは増大している場合、E2+P製剤を使用し一度月経を起こすことを検討します。月経を起こした場合は、次の月経中に嚢胞が縮小していることを確認しています。嚢胞のサイズがあまり大きくなければ(10mm程度)、発育卵胞の可能性も考えて、適宜早めにフォローしています。
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妊娠に至らない場合、どのくらいタイミング法を継続すべきでしょうか。上記左のデータは原因不明不妊の治療成績のデータです。12か月でタイミング法の累積妊娠率は約50%となり、24ヵ月では約60%となります。
また、
・30歳未満、不妊期間2年以内は経過観察のみで累積妊娠率60%
・不妊期間3年以上では周期あたり妊娠率は3%へ低下
・36歳以上、不妊期間2年以上は累積妊娠率30%
というデータがあり、不妊期間が長くなり、年齢が高くなると周期あたり妊娠率や累積妊娠率は低下すると言われています。
私は、排卵障害が強い場合は治療期間1年、排卵障害がない場合は不妊期間+治療期間で1年を基準にしていますが、年齢や卵巣予備能(AMH、AFC)で適宜タイミングをとる期間を短縮する方向で調整をしています。
これが最後です。