【やさしい】トリガーに点鼻薬を使う理由【不妊症ガイド】
たなかゆうすけです。
今回はトリガーに点鼻薬を使用する理由についてお話をします。
トリガーに点鼻薬を使用する理由は、合併症対策です。
卵巣刺激、採卵の合併症
卵巣刺激と採卵の合併症は、針を刺すことによる出血や、子宮や卵巣や腸などの骨盤内の臓器を損傷することなどがあります。これらは普通の手術でも起こりますが、これらは針を刺すことにともなって起こりますので、トリガーの使い分けとは関係ありません。
これ以外に、卵巣刺激と採卵には、特徴的な合併症があります。
卵巣過剰刺激症候群
卵胞が多数発育することによる合併症を卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyper-stimulation syndrome;OHSS)と言います。
OHSSについてはまた別項でお話しますが、これが卵巣刺激と採卵を行う上での大きな問題でした。重症化すると入院が必要になるばかりか、命に関わることすらあります。採卵方法の進化は、OHSSへの対策として起こってきた側面があります。
その昔、卵巣刺激の一般法にはショート法とロング法しかありませんでした。ショート法とロング法は点鼻薬を連続使用して排卵を抑制する方法です。この状態ではhCGでしかトリガーをかけることはできません。実は、このhCGが問題なのです。
hCGは非常に重要な役割を持っていますし、必要不可欠な薬剤です。卵胞があまり多くない場合はhCGでトリガーを行ってもほとんど問題は起きません。しかし、発育した卵胞数が多い場合は問題となります。
hCGはからだの中で代謝されるスピードが遅く、長い間からだの中に残ります。からだの中にhCGが残っている間はなかなか月経が来ません。この間は、多数卵胞が発育した結果として高エストロゲン状態となっており、からだに様々な影響が出ます。
OHSSが重症化する原因の大きな部分を、hCGが占めています。
これに対し、点鼻薬はOHSS重症化のリスクは高くありません。点鼻薬によってLHの分泌が起こり排卵が促されますが、この状態は比較的短時間で収まってしまいます。持続的に卵巣への刺激がないため早めに月経が来ることが多く、高エストロゲン状態が長く続きません。このように、点鼻薬は、卵胞が多数発育した際に比較的合併症が起きにくい特性を持っています。
ショート法、ロング法の時代から、アンタゴニストの出現で点鼻薬でトリガーできるようになり、卵巣刺激と採卵は劇的に変化しました。厚生労働省が対策マニュアルを作成しているようにOHSSは採卵における重篤な合併症でしたが、現在ではめっきり減りました。私も自分の症例では重症以上の症例は見たことがありません。卵胞が20個も30個も発育すると、ひと昔前ならOHSSの重症化が心配されましたが、今では重症化することはそう多くありません。hCGでなく、点鼻薬でトリガーできるようになったおかげです。決して舐めてはいけませんが、対策を理解していて穿刺技術がしっかりしていれば、そうそう恐れる必要もありません。
OHSSは典型的な医原性疾患で、ほとんどは医療行為を契機に発症します。健康な人が妊娠を望んで治療を行ったら、不健康になってしまったというのでは本末転倒です。しかも発症する状況や重症化する理由もほとんどわかってしまっています。もはやOHSSは起こってしまったら仕方がないものではなくなっています。
そのために、卵胞が多く発育したときには点鼻薬でトリガーするということが重要なのです。
まとめ
点鼻薬でトリガーする理由とは、卵胞が多数発育したときに、合併症、特にOHSSを予防するためというお話でした。
次は少し戻って新鮮胚移植のお話をしてから、OHSSの詳しいお話をしようと思います。
妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…
たなかゆうすけでした。
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