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【やさしい】胚選別の功罪【不妊症ガイド】

たなかゆうすけです。

今回は、胚選別の際に意識すべきバランスについてです。


胚(受精卵)の選別

選別とは、選り分けることです。胚の選別は、出産に至る胚を選り分けるために行います。出産に至る胚とは、妊娠・着床率が高く、流産率が低い胚です。胚の選別方法は、胚のステージと形態的評価による選別とそれ以外(PGT-Aなど)に分かれます。

胚のステージと形態的評価による選別は、初期胚の形態的評価(Veeck分類)と、胚盤胞の形態的評価(Gardner分類)が主に使用されています。通常の胚選別であれば、この二つで十分です。

さらに選別を行う方法として、iDA score(タイムラプスインキュベーターを用いたAIによる胚選別)や、PGT-A(染色体正常胚を選別する方法、いわゆる着床前診断)などがあります。これらもまた、結局は出産に至る胚を選別する方法です。

これらはやればやるほど良いかと言えば、そういも言いきれません。選別しなさすぎは、移植当たりの妊娠・着床率を低下させる可能性がありますが、選別しすぎるとどういうことが起こるのでしょうか。


本来妊娠する卵が廃棄される可能性

形態的評価は100%の評価はできません。あくまで確率的に妊娠・着床率が高く、流産率の低い胚を選んでいるだけで、100%妊娠し、100%流産しない受精卵を選ぶことはできません。これは、選ばれなかった胚にも同様のことが言えます。つまり、100%妊娠しないとか、100%流産するといったことは言えないわけで、赤ちゃんになり出産に至る可能性がないかというと、そういうわけではありません。iDA scoreを用いた選別にも同じことが言えます。ですので、形態良好胚でないからと言って、必ずしも破棄する必要はありません。セオリーは形態良好胚の移植ですが、そういった胚が得られる可能性が高くないときには、形態良好胚でなくても移植・凍結するという選択肢があります。

倫理的な話をすると、胎児(赤ちゃん)になる可能性のあるヒト胚を破棄することには大きな問題が付きまといます。かといってすべての胚を保存・移植すると、多大な時間とコストがかかってしまいます。特に保険診療下では、1回の妊娠・出産での移植回数は最大6回までと決められていますので、選別を行わずに移植を繰り返すとすぐに移植回数を使い切ってしまいます。倫理的な問題を、現実的な制限があるため許容しているというのが実際なのです。

また、体外培養期間が長くなると、胚へのダメージが蓄積されることも考えられます。初期胚の状態では形態的に良好でも、胚盤胞では形態良好胚に発育しないことはままあります。体内では赤ちゃんになる胚が、体外で長期間培養したためために発育しなかったという可能性はあるということです。選別を行うことは非常に重要なことですが、選別しすぎて胚を得られなければ妊娠率はゼロです。個々の状態に応じて体外培養期間を短縮し、厳しい選別をあえて行わないといった選択も、時には必要となります。

PGT-Aでもまた、同じことが言えます。PGT-Aもまた万能の方法ではありません。基本的に良好胚盤胞しか検査に提出できないため、検査に提出できない胚にも妊娠する可能性のある胚は含まれます。PGT-Aでは、本来妊娠する可能性のある受精卵を廃棄してしまっている可能性はたびたび指摘されています。


このように、厳しい選別を行うと本来赤ちゃんになる受精卵を廃棄してしまう可能性があります。基本的には選別は行うべきですが、それ一辺倒ではなく、個々の状態に応じてどこまで選別をかけるかは検討する必要があります。


今日のお話はかなり難しいので、すべて理解していただく必要はありません。こういったバランスを取りながら診療を行っているんだなあという程度で結構です。


妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…

たなかゆうすけでした。

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