【やさしい】数打つとどうなるか(どうなっていたか)【不妊症ガイド】
たなかゆうすけです。
胚選別をあまり行わずに、数打ちゃ当たるの論法で一度にたくさんの受精卵を戻したらどうなるのか?複数の受精卵を戻すのが当たり前だったころは何が起こっていたのか?
二人以上の赤ちゃんを一度に妊娠する、多胎妊娠が頻発していたのです。
1990年ごろの状況
多胎妊娠の年代別推移は、日本産婦人科学会から発表されているARTデータブックに詳しく書いてあります。
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2021_JSOG-ART.pdf
体外受精胚移植が開始された1990年ごろには、多胎率は20%弱もあります。これは6回妊娠したら1回は双子以上という確率です。このころを詳しく知らない我々世代からすると、この多胎率はなかなか恐ろしいものがあります。
当時は胚培養の技術と胚凍結の技術がまだ高くなかったため、培養期間を短くして初期胚の状態で胚凍結せずに移植を行っていました。初期胚の1個移植では十分な妊娠率が担保できないのと、凍結して受精卵を保存する技術が未熟であった(凍結すると胚がダメになることが多かった)こともあり、複数の胚を移植するのが当たり前だったのです。
妊娠率があまり高くない初期胚とは言え、着床するときにはしっかり着床します。複数戻せば、当然複数の胚が着床することがあります。この複数胚移植の結果が、前述の多胎妊娠の頻発です。
結局、一度に数打てば多胎になる、ということです。
多胎妊娠の頻発を受けて
多胎妊娠は妊娠中と出産時のリスクが母児ともに高く、この多胎妊娠の多発を受け、1996年には、日本産婦人科学会より、『体外受精・胚移植においては移植胚数を原則3個以内とする』という会告が出されました。これによって3つ子以上の多胎妊娠は減少しましたが、体外受精・胚移植の件数増加に伴って双胎妊娠の件数は増加しました。多胎率が10%を超える状況は2000年代前半まで持続し、2007年に日本生殖医学会より『多胎妊娠防止のための移植胚数ガイドライン』が、2008年には日本産婦人科学会より『生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解』が発表されました。
『多胎妊娠防止のための移植胚数ガイドライン』では移植個数について以下の通り述べられています。
1.胚移植においては、移植胚数を3個以内とすることを厳守する。
2.多胎妊娠のリスクが高い35歳未満の初回治療周期では、移植胚数を原則として1個に制限する。なお、良好胚盤胞を移植する場合は必ず1胚移植とする。
3.前項に含まれない40歳未満の治療周期では、移植胚数を原則として2個以下とする。なお良好胚盤胞を移植する場合は必ず2個以下とする。
『生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解』では、移植する胚は原則として単一とすること、ただし、35歳以上の女性または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては2胚移植を許容する、となっています。
その後は胚培養技術と凍結技術の進歩に伴い単一胚盤胞移植が主流となり、妊娠率の向上と多胎の予防が両立するようになってきました。現在では、多胎率は3%を切るまでになってきています。
先人たちと周産期の先生方の努力の上に、今日の体外受精・胚移植が成り立っているということを改めて感じます。
さて、次はすこし話をもどして、もう一度胚選別の話をします。選別はすればするほど良いのかいうと、そうとも言い切れない部分があります。胚選別の際に意識すべきバランスについて、次回お話をします。
妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…
たなかゆうすけでした。
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