【やさしい】子宮卵管造影検査について②【不妊症ガイド】
たなかゆうすけです。
今回は子宮卵管造影検査(HSG)の続きです。
子宮卵管造影でわからないこと
検査にはわかることとわからないことがあります。わかることについては前回お話したとおりです。わからないことは、
1.卵管が100%閉塞していると断定すること
2.その後の妊娠の可能性
です。えっ、むしろHSGってそれを調べる検査じゃないんですか、と思われると思います。実際は、これらは完全にわかるわけではありません。
現在、卵管の検査において最も有効性が高い『gold standard』は、腹腔鏡検査と言われています。HSGは、造影剤を使って卵管の通過性や腹腔内の癒着などを間接的に画像化して確認する検査です。これに対し、腹腔鏡検査はカメラを腹腔内へ挿入して骨盤内の状態を直接目視できるため、精度の高い検査です。HSGは腹腔鏡検査と比較して診断精度がやや劣るとされています。
HSGは卵管が開通していることの診断精度は高いのですが、閉塞の診断は比較的不得意です。HSGで卵管閉塞と診断された例でも、腹腔鏡検査を実施してみると開通していたということが少なからずあります。卵管は筋肉でできており、この筋肉の収縮のタイミングによっては閉塞と診断されてしまうことがあります。
また、卵管周囲の癒着の診断精度をHSGのみで診断するのは困難とされています。卵管周囲の癒着については、直視できるという性質から腹腔鏡検査の方が診断精度は上ですし、そのまま治療(癒着剥離)ができてしまいます。
ただし、本邦では不妊治療の中心は市中のプライベートクリニックであり、腹腔鏡検査が気軽に行える状況ではありません。また侵襲性(体への負担)の高さとコスト、体外受精のハードルが低下していることなどの理由からも実際には腹腔鏡検査はあまり行われません。
このような診断の不確実さもあり、HSGでは妊娠の可能性を正確に言い当てることはできません。
検査の後に決めなければいけないこと
では、ここまでお話したHSGの特性を理解した上で、検査を受けた後のことを考えていきましょう。
HSGは卵管因子を見る検査です。シビアな卵管因子を認めた場合には、閉塞の診断が間違ってることを期待して卵管には何もせずタイミング法や人工授精を行うか、卵管を再開通させるか、卵管を使用しないで妊娠を目指すかのいずれかとなります。卵管を再開通させる方法が卵管鏡下卵管形成術(FT;falloposcopic tuboplasty)で、卵管をしない方法が体外受精・胚移植です。
結局、HSGを実施した後には、体外受精・胚移植を行うかどうかを決めなければいけないということになります。
ここから少し場合分けをしましょう。
卵管因子が正常~軽度、精液所見が基準値以上~軽度低下の場合
この場合は、まずはタイミング法や人工授精で良いでしょう。ただし、年齢や卵巣予備能(AMHなどの残存卵子数の指標)に注意をしながら、『いつ妊娠していなければ体外受精・胚移植へ移行するのか』をいずれ考える必要があります。そこまで余裕がないことがなければ、体外受精・胚移植への移行は少しくらい時間をかけても問題ないでしょう。
卵管因子が正常、精液所見がかなり悪い場合
この場合も、年齢や卵巣予備能に余裕があれば、まずはタイミング法や人工授精で良いでしょう。ただし『いつ妊娠していなければ体外受精・胚移植へ移行するのか』をしっかり考えておきましょう。年齢や卵巣予備能に余裕がない場合は特にです。移行時期を逸することは避けましょう。
卵管因子が高度、精液所見が基準値以上~軽度低下の場合
FTや体外受精・胚移植を積極的に検討しましょう。特に年齢や卵巣予備能に余裕がなければ、早期に体外受精・胚移植を検討すべきです。場合によっては人工授精は実施しなくても良いと思います。比較的余裕がある場合は体外受精・胚移植以外の治療からスタートしても問題ありませんが、『いつ妊娠していなければ体外受精・胚移植へ移行するのか』をしっかり検討しながら進めていきましょう。
卵管因子が高度、精液所見がかなり低下している場合
ほぼ体外受精・胚移植一択だと思いますが、それ以外の治療を選択する場合は、『いつ妊娠していなければ体外受精・胚移植へ移行するのか』をしっかり検討しておきましょう。年齢や卵巣予備能をしっかりと考え、体外受精・胚移植へ移行する時期を逸しないよう勧めてください。
まとめると…
結局、『いつ妊娠していなければ体外受精・胚移植へ移行するのか』を、卵管と精液所見、年齢、卵巣予備能の程度から決めるということになります。体外受精・胚移植へ移行するまでの間は、卵管因子がシビアであればFTを検討しても良いし、精液所見が低下している場合は人工授精を検討しても良いでしょう。重要なのは、漫然と治療を進めずにしっかりと線引きをしておき、体外受精・胚移植へ移行する時期を逸しないことです。
HSGを実施したあとには、重大な決断を迫られることがあります。当事者としてはなかなか決めづらいこともあると思いますが、しっかりと考えてみましょう。ご相談はいつでもお受けします。
妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…
たなかゆうすけでした。
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