【やさしい】胚培養とは【不妊症ガイド】
たなかゆうすけです。
今日は、体外受精・胚移植における胚培養についてお話します。
採卵で卵子を体外へ取り出して受精させた後、受精卵(胚)を培養します。この胚培養は何のために行っているのでしょうか。
培養という言葉の持つ意味
細胞培養とは、多細胞生物から細胞を分離し、体外で増殖、維持することとされています。採卵によって卵子を体外へ取り出し(分離)し、受精卵の細胞を分裂・増殖させ、これを維持することで着床に至る胚を作成するのが、胚培養と言えるでしょう。
培養は『無理やり育てる』ではない
ここで気を付けなければならないことは、培養には『無理やり育てる』と言った意味は含まれていないということです。本来育たない受精卵を無理やり育てて胚にしているわけではなく、生存できる環境を用意してその中で『勝手に育つのを待っている』のが胚培養です。培養器(インキュベーター)を適切な温度、湿度、気体組成に保つことで、受精卵の生存に適した環境を作ります。
通常の細胞培養と胚培養の違い
細胞培養は通常、研究対象の維持や、特定の目的のために大量に取得するために行います。しかし受精卵の培養は、そういった目的ではなく、再度生体内へ戻すために行われます。ずっと体外に置いておくわけではなく、いずれ生体内へ戻すのであれば、長い時間体外で培養する必要はあるのでしょうか。例えば受精させた直後に子宮内へ戻してしまえば良いのではないでしょうか。
もちろん、体外で長い時間培養するのには明確な目的があります。
胚培養は『胚選別』である
受精直後の受精卵は、まだちゃんと育つかどうかはほとんどわかりません。この状態の受精卵を子宮の中に戻しても、妊娠するかどうかは予想がつかないため、本来妊娠しない胚移植を繰り返すことにもなりかねません。時間を浪費してしまうことにもつながります。
基本的に、長い時間体外で生存できた受精卵のほうが妊娠率は高くなります(細胞の状態などにも依りますが)。これは、『そこまで育てたから妊娠率が上がった』というよりは、『そこまで育ったから妊娠率が高い』と捉えるのが正解です。つまり、生き残ったものは強いということです。
さらに、受精から2日~3日後の初期胚では細胞の数や、細胞の大きさの揃い方、フラグメンテーションと言われる細胞断片の状態で、同じステージの胚でも妊娠率に差が出ます。また、受精から5日~6日後の胚盤胞では、発育段階や胎児になる細胞群である内部細胞塊(inner cell mass;ICM)や胎盤になる細胞群である栄養外胚葉(trophectoderm;TE)の状態で、同じステージの胚でも妊娠率に差が出ます。簡単にいうと、見た目が良いものは妊娠率が高いということです。
こういった環境と見た目でのセレクションを経て選別された受精卵は、高い妊娠率をマークします。繰り返しますが、これは、『人為的に介入して良い受精卵に育てたから妊娠率が高くなった』わけではなく、『勝手に良い受精卵に育ったから妊娠率が高い』ということです。
こうして妊娠率の高い受精卵を選別して1回の妊娠着床率を上げることで、本来妊娠しない胚移植を繰り返して時間とコストを浪費してしまうことを防いでいます。胚培養は主にこのために行われています。
数打ちゃ当たる?
それでは、胚選別をあまり行わずに、数打ちゃ当たるの論法で一度にたくさんの受精卵を戻したら良いのでは?と考えるかもしれません。実は、過去には複数の受精卵を戻すのが当たり前だった時代もあったのです。
次は、複数胚の移植で何が起こっていたか、選別をしっかり行うようになり何が起こったかをお話しましょう。
妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…
たなかゆうすけでした。
コメント、メッセージ、スキなどいただけると大変励みになります!