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今や昔の上京物語

「東京出張、あなた担当ね」
そう言われたのは、転職したばかりの新しい会社でのことだった。
山手線のどっちに乗ったほうが目的地に早く着くのか、そんなこともわからずに、毎回延々同じ電車に乗っていたり、旅行社任せてホテルを手配してもらったら、タクシーの運転手さんからも「いやぁ、こんなところ女の子が泊まるエリアじゃないですよ」と言われたり、もうぐだぐだだったけど、でも、東京は本当にワクワクする場所だった。
電車の路線はいつまでも覚えられなかったけれど、どの席に座れば、どのあたりで東京タワーが見える、なんてことはすぐに覚えてた。

東京に着いたら、ひとまずぴあを買って、滞在中のあれやこれやチェックして、仕事の合間に行きまくった。
一応、仕事なので、どこにいくにも連絡が取れるようにだけはしておいて、前の歌舞伎座でも電波の入る幕見席の入り口近くに座るようにし、美術展やいろんな展示、期間限定のイベントなど、本当に朝一番から夜遅くまであちこち出歩いていた。
当時は食とファッションにはあまり興味がなかったので、食べる時間も惜しんで、動き回っていたら、見かねた取引先の方達が、あちこち美味しいお店にも連れて行ってくれるようになり、ますます東京にハマっていった。
だって、地元で1ヶ月間やっているイベント・コンサートなどが、東京なら一晩だ。人も多いけど、それにもすぐに慣れた。人の集まる企画展の横で、ひっそり素敵な展示が見られる常設展なども、やっぱり規模が違うのだ。

そうこうしているうちに、九州から早朝・深夜に飛ぶ飛行機が現れて、日帰り出張が増え、私の自由時間はすっかり短くなってしまった。残念。
それでもモノレールから見える景色だけで、十分ワクワクドキドキは楽しめたけれど。

たまたま、今の関東在住の相方と知り合って、嫁に来ないかと言われた時も、あんなにすんなり承諾したのはやっぱりこの経験があったからなんだろうなぁと思う。
とはいえ、本当に上京してきてしまうと、すっかりイベントごとには足が向かなくなってしまったな。
毎回買ってたぴあもなくなっちゃったしね。

久しぶりに、行ってみますか。
いまだにどっちむきが正解か悩む山手線にも乗ってみたいね。

#上京のはなし


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